Doctorbook academy

小木曽縁

臼歯離開咬合の獲得を目的に, 咬合平面の改善を行った症例

<この症例はザ・クインテッセンス2017年2月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201702.pdf
#診断用模型 #プロビジョナルレストレーション

【患者】
60歳,男性.明るく温厚な性格であるが,喫煙者で口腔衛生への関心は低い.

【主訴】
左上3番欠損部の部分床義歯を紛失してしまい,みた目が悪いため,歯を入れてほしい.

【歯科既往歴】
6年前にう蝕によって抜歯した左上3番部には,隣在歯を切削するブリッジに抵抗があったため,部分床義歯を装着していた.単身赴任で転勤を繰り返しており,問題の生じた部位の治療をそのつど赴任先で受けていた.

【診査・診断】
臼歯部補綴物にはシャイニングスポットが認められ,ガイディングトゥースには咬耗や頬側歯肉退縮を認めたため,臼歯部補綴物の干渉により夜間のブラキシズムを助長した可能性を疑った.診断用模型を咬合器にCR マウントし,チェックバイトを用いた咬合器の顆路調節を行い,診断用ワックスアップを行った.右上7番6番が挺出しているため,左側側方運動時の平衡側干渉を除去し臼歯離開を得るためには,左上3番の補綴による適切な側方ガイドの回復だけでなく,右側臼歯部咬合平面の是正が必要であると診断した.


【治療計画】
診断結果をお伝えし,とくに右側臼歯部は補綴物の再製作が必要であることを診断用模型を用いて説明した.また一定期間プロビジョナルレストレーション(以下,PR と略)を装着し,付与した形態の機能面での評価が必要なことにも理解を得たうえで治療を開始した.

【自己評価】
左上3番の補綴だけでなく,右側臼歯部の咬合関係を改善することで,目標とした側方運動時の臼歯離開を与えることができた.治療開始前に咬合器上で診査・診断することは,問題点の抽出を容易にし,治療目標の設定や患者への説明に対しても大変有用であった.

【今後の課題】
診査・診断や再評価の重要性がわかっているつもりでも,治療の途中で見落としに気づき,後戻りしなければならない状況をしばしば経験する.治療が複雑になればなるほど気をつけなければならない点は増えるため,さまざまな視点から口腔内をみることができるように今後も勉強していきたい.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 土屋賢司

     著者がきちんと基礎資料を収集され,それらをもとに1つひとつの処置を確実に行っている姿勢がみてとれる.また,診断用ワックスアップから外科治療,補綴治療など,たしかな治療技術を有していることがわかる.
     さて,本症例のディスカッションポイントの1つに,右下8番の抜歯の是非,さらにはその抜歯のタイミングが挙げられる.まずは感覚受容器を有する最後方歯の右下8番の抜歯の必要性であろう.もし補綴を行ううえで上顎大臼歯と咬合するのであれば,最後方歯における感覚受容器は確保される.清掃性,フードインパクション等の問題は考えられるが,たとえ小臼歯タイプの咬合面であっても中間欠損へのインプラント埋入の優位性も鑑別診断する余地はあったであろう.また,右下8番を抜歯して下顎右側臼歯部に理想的にインプラントを埋入するのであれば,右下8番を残したままの埋入処置はポジションに細心の注意が必要である.おそらく右下8番が邪魔となったために右下7番のインプラントポジションがやや近心寄りに埋入されているのがわかる.今後,₇ 遠心へのオーバーロードや,それにともなうチッピングなどに注意が必要である.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2017年2月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 土屋賢司

     インプラント治療を行う際に大切なのは,感覚受容器を有する天然歯との共存であると筆者は考えている.そのために,インプラント治療の予後と患者の時間軸を踏まえたうえで,両者ができるかぎり共存できる環境を整えることが求められる.左上3番インプラント補綴部は左上2番3番4番のアンテリアグループファンクションになっているようだが,左上4番までガイドに参加させるか否かは歯根サイズ,歯肉退縮等を考慮に入れながら行うことが大切である.
     著者はすでに多くのや高い治療技術をもちあわせているのだから,歯科医師としてこれからさらに成長していってもらうためには,個々の患者に対して理想像を追求しすぎずに,治療の予知性や長期展望を考えることがポイントとなろう.著者のますますの活躍に期待している.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2017年2月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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