Doctorbook academy

森 基彦

上顎前歯部に歯肉弁根尖側移動術を 行い,審美改善をはかった症例

<この症例はザ・クインテッセンス2017年6月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201706.pdf
#フェルール #生物学的幅径 #歯肉弁根尖側移動術 #審美修復

【患者】
47歳,女性.非喫煙者.活動的でいろいろなスポーツを行っている.歯科治療だけは消極的で,何度も説明を行い,やっとのことで治療に進んでいく注意深い性格である.

【主訴】
前歯を中心に口腔内全体をきれいにしてほしい.

【歯科既往歴】
幼少期からたびたびう蝕処置を受けてきた.以前から上顎前歯の丸い形態が気になっており,どのような治療ができるのか聞くために当院を受診した.

【診査・診断】
下顎の前歯部以外は補綴治療を受けていることから,全体的な診査・診断が必要であると考え,デンタルエックス線写真,ポケット診査,咬合診査,矯正診断を行う.主訴である前歯部の補綴物は適合状態が不良であり,臼歯部も咬合平面の修正も含めた全顎的な治療が必要である.しかし歯周基本治療後の矯正治療,臼歯部の補綴処置による咬合平面の修正は治療期間が長期となるため,将来の転勤を考慮して受け入れてもらえなかった.右上1番左上1番の平均的な歯冠長は11mmに対して患者は8mmと短く,患者も前歯の丸い形態に不満をもっていたので,前歯に対しての治療計画の立案をしたところ,上顎前歯部の縁下う蝕の除去,審美性,清掃性獲得のための骨外科手術による歯冠長延長術には同意していただいた.

【治療計画】
右下1番左下1番の平均的な歯冠長が10mmに対し,患者は9mmと短いので,右上1番左上1番の歯冠長を10mm に設定した.そのことにより縁下う蝕の除去,フェルールに必要な健全歯質の確保を行う.あらかじめ予想される歯冠- 歯根比の不足には歯の連結で対応し,プロビジョナルレストレーションで歯の独立性,清掃性,咬合,審美性に注意を払い調整を行う.

【自己評価】
右上1番左上1の平均的な歯冠長は11mm に対して患者は8 mm と短い.また,患者も前歯の丸い形態に不満をもっていた.そこで生物学的幅径の確保,そしてフェルールに必要な健全歯質の確保のため,歯周外科処置(歯肉弁根尖側移動術)を行った.その処置により清掃性,審美性を獲得することができ,患者にも審美的に満足してもらえた.

【今後の課題】
長期に安定させるため,咬合平面や局所的な骨レベルを揃えるための矯正治療の重要性を理解していただくこと,メールと写真では歯科技工士と十分に意思の疎通ができず,プロビジョナルレストレーションの形態を補綴物に生かしきれなかったこと,この2つが課題である.現在は歯科技工士と直接話し合える環境になったので,これを糧に頑張っていきたい.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 佐藤憲治

     本症例のように,前歯部の審美障害が主訴で中等度慢性歯周炎に罹患している場合は,初期治療において緊急性がなければ,臼歯部に優先すべき問題がないかを診査・診断し,問題があれば先に解決しておかなければならない.しかし,通院期間に限りがある場合は,局所での治療が可能か主訴部位の隣接歯を含めた十分な診査・診断が重要である.
     本症例では,右上3番左上3番が健全歯であることより,右上2番〜左上2番の歯質の状態が健全で犬歯まで連結の必要性がなければ局所での治療が可能であることがわかる.しかし,長いメタルコアをともなう根管治療の再治療が必要であることより,根管治療時に歯根破折やクラックが認められれば治療計画の変更を余儀なくされる.
     本症例では,初期治療時に1 本ずつ根管を確認し,保存が可能なことを確かめながら行っていることに森先生の歯の保存に対する熱意を感じる.また歯肉弁根尖側移動術を基本に忠実に行い,審美的な結果も得られている.術後の歯肉辺縁の位置を予測し,患者さんの希望である歯冠形態を叶えることができ,QOLの向上が達成できたと思われる.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2017年6月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 佐藤憲治

     前歯部に歯肉弁根尖側移動術を行う場合,生物学的幅径を考慮して術後の歯肉辺縁を予測するため,術前の歯槽骨レベルの診査・診断が大切になる.
     本症例では,右上2番の唇側骨に裂開が認められるため,歯槽骨整形後の骨のスキャロップが隣接歯との間で調和が不十分である.₂は,やや口蓋側転移を認めるが術中の画像より根尖は唇側寄りで歯冠が口蓋側に向いていることが予測できる.この場合,浸潤麻酔下で歯槽骨のサウンディングを行うことで,ある程度術前の歯槽骨レベルの予測が可能ではなかったかと思われる.また,歯軸方向は,根管治療時にも歯根方向の予測ができたと思われる.よって,右上2番は限局矯正を行うことで歯軸と唇側の歯槽骨レベルを合わせることが可能であれば,より予知性のある歯周環境が得られたのではないだろうか.最終補綴装着後6か月と短いため,今後は,歯根破折に十分な配慮が必要で,それには森先生もコメントされているように,臼歯部を含めた一口腔単位のメインテナンスが重要である.
     切除療法は,長期的に補綴物を維持管理するために重要なオプションの1つである.本症例をバネにさらなるステップアップを期待したい.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2017年6月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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