Doctorbook academy

山脇史寛

垂直性骨吸収の部位・形態を考慮した歯周治療 非外科・外科治療の選択

<この症例はザ・クインテッセンス2017年7月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201707.pdf
#垂直性骨吸収 #歯周組織再生療法 #非外科治療

【患者】
58歳,男性,非喫煙者.物静かで,真面目な性格で口腔内への関心は高い.

【主訴】
半年くらい前から下の前歯の歯肉が頻繁に腫れる.

【歯科既往歴】
今までは症状のある部位のう蝕治療や歯内治療を行ってきたが,歯周治療は歯肉縁上スケーリングのみであった.

【診査・診断】
全顎的に深い歯周ポケットと骨吸収が認められた.右下1番左下1番間の骨吸収はプラークにより炎症が起こり,咬合性外傷により骨吸収が進行したものと思われる.左下7番に関しては側方運動時の咬合干渉と埋伏智歯に起因した垂直性骨吸収と推測した.

【治療計画】
広汎型重度慢性歯周炎と診断し,まずは患者のモチベーション,プラークコントロールの確立,スケーリング・ルートプレーニング(SRP)による炎症のコントロール,そして咬合調整やオクルーザルスプリントによる力のコントロールを行った.再評価検査では,全顎的に歯周ポケットの改善が確認されたが,深い歯周ポケットの残存を認めたため,CBCTにより精査して歯周外科治療(歯周組織再生療法)の適応か診断した.その結果,下顎前歯部は骨内欠損が1 壁性の広く浅い( 2 mm 以下)形態であった.前歯部でプラークコントロール良好であったため,非外科治療(再SRP)を選択した.₇は3 壁性の狭く深い( 5 mm)骨欠損形態であったため,エムドゲイン® による歯周組織再生療法を選択した.

【自己評価】
非外科治療においては生物学的に許容できる根面の獲得を目標とした.基本的なことではあるが,探針により歯石を触知し,キュレットにより歯石の確実な除去を行った.また,不用意な器具操作による歯肉退縮を起こさないようにキュレットの先端1/3のみを根面に当て,ていねいにデブライドメントを行った.歯周組織再生療法に関しては徹底的なデブライドメントを行い,一次閉鎖とテンションフリーになること心掛けて縫合した.

【今後の課題】
歯周炎に罹患した口腔内はさまざまな問題点が存在していることが多く,歯周治療のみならず,矯正治療や咬合再構成などの包括的な治療が必要になる.そのため,今後は一口腔内単位で問題点を把握し,包括的な診断・治療を行えるように,1 つひとつの治療をていねいに行い,さらなる技術の向上や習得に努めたい.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 土岡弘明

     本症例のように垂直性骨吸収をともなう慢性歯周炎の治療には,可能であれば歯周組織再生療法を選択する場合が多いが,100%の再生は困難であり,その成否も骨欠損形態や歯科医師の技術,患者の協力度に依存する.診査・診断を正確に行い,歯周基本治療中に患者のモチベーションとプラークコントロールの質を高め,患者と術者の共通のゴールを設定して,治療を進めていくことが重要である.
     今回,患者の良好なプラークコントロールと術者の適切なデブライドメントにより歯肉の炎症は消退し,その後の治療によい影響をもたらしたのみならず,患者の治療に対するモチベーションを十分に高めたと考えられる.スケーリング・ルートプレーニング時のエキスプローリングによる根面形態およびボーンサウンディングによる歯槽骨形態の把握に加え,再評価検査時にCBCT により骨欠損形態を把握することは,非外科・外科治療の選択,その術式を選択するうえで有効であった.術者は,下顎前歯部を非外科治療のみで炎症のコントロールを行えたことからもわかるように,確実なデブライドメントを行える技術を有している.スケーラーなどの器具操作は,歯周外科治療においても重要であり,切開から縫合まで,ていねいな処置を心掛けたことが,良好な結果をもたらしたのであろう.術前に認められた左下7番遠心部の垂直性骨欠損は,歯周組織再生療法により骨様組織で満たされ,口腔清掃時の疼痛を遊離歯肉移植術で解決することにより,清掃しやすい環境が得られ,長期的に維持・安定が期待できる結果となった.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2017年7月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 土岡弘明

     山脇先生は私の所属していた医局の後輩であり,現在は同じスタディグループでともに学ぶ仲間である.そこで得た知識や技術を自分のものにし,着実にステップアップしていると感じている.
     これまでに培ってきた技術,考え方によって歯周治療が奏功し,局所的に良好な治療結果が得られているが,下顎前歯部の歯列不正(叢生や切端の不揃い)はプラークリテンションファクターとなりうることや,力のコントロールをするうえでも不利である.理想的な治療計画としては矯正治療により歯列不正の改善をはかるべきであったと思われる.このケースは治療終了後2 年経過し,安定しているが,今後5年,10年と長期的な維持・安定をはかるためには,注意深いメインテナンスが必要である.
     われわれ歯科医師は,局所的な問題点を解決するための材料,技術に目が行きがちであるが,一口腔単位で治療計画を立案し,実行しなければならない場合も多く存在する.歯周治療のみならず歯列や咬合の問題を抽出できる目を養い,自らの能力の範囲で妥協することなく,その問題点を解決する能力を身につけ,包括的な治療が行えるように今後も研鑽を積んでほしい.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2017年7月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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