Doctorbook academy

高野遼平

若年者の鋏状咬合に対する 限局矯正治療の一症例

<この症例はザ・クインテッセンス2017年8月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201708.pdf
#鋏状咬合 #矯正治療 #若年者


【患者】
14歳,女性.中学3 年生.明るい性格.真面目で協力的.趣味:読書.部活:吹奏楽部.説明をしっかりと聞き,歯の大切さを理解してくれる.

【主訴】
以前に検診で指摘された歯並びを治したい.母親と本人の両者が治療を希望していた.

【歯科既往歴】
約1 年前より鋏状咬合について指摘していたが,矯正治療を行うか迷われていた.機能障害や顎関節症状は認めなかった.

【診査・診断】
左上7番頬側傾斜,左下7番舌側傾斜,右上5番頬側傾斜,右下5番舌側傾斜にともなう鋏状咬合を認めた.側貌セファログラム分析より骨格性Ⅰ級,Angle Ⅰ級,Low angle 症例と診断した.タッピングは安定しており,咬頭嵌合位と中心位にズレを認めなかった.

【治療計画】
矯正治療の必要性,放置した場合のリスク,限局矯正治療の手法と限界について説明し,同意を得た.咬合の緊密化が不十分な場合には,全顎矯正治療に移行することも同意してもらったうえで治療を開始した.

【自己評価】
圧下力を作用させるフォースシステムを選択したことにより,挺出させずにアップライトを行えた.患者が若年者であったこと,咬合力が強く顎位が安定していたこと,Low angle 症例であったことが装置撤去後の咬合の緊密化に寄与したと考察した.早期に介入したことが今後の健全歯列の保全につながることを期待している.

【今後の課題】
歯列弓形態の非対称性や辺縁隆線の不揃いは改善できておらず,限局矯正治療の限界も感じた.本症例では限局矯正治療のみで対応したが,今後は全顎矯正治療にも習熟するように研鑽を重ね,不正咬合により適切に対応できるようになりたい.

本誌はこちらから https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 関崎和夫

     今回のケースをみて一番感心したのは,基本をしっかり守って診療している著者の姿勢が隅々にみえることである.たとえ限局矯正治療でも,矯正治療には必須の顔貌写真,口腔内写真,頭部エックス線規格写真の基本的な診断資料をしっかり採り,それを分析・診断したうえで矯正治療に取り掛かっている.今回の鋏状咬合の改善は咬合高径の変化を生じやすいが,限局矯正治療の固定源も確実で,咬合関係の崩れを最小限に抑えている.写真の規格性もすばらしく,う蝕・歯周病予防も確実に行っており,患者およびその家族全員と患者説明を十分したうえ,信頼関係がしっかりとれていることも把握できる.
     以上のことからも,限局矯正治療に限らずGP(一般臨床歯科医)としての日常臨床レベルの高さも想像できるすばらしい症例報告である.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2017年8月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 関崎和夫

     限局矯正治療(LOT or MTM)は簡単な矯正と思われやすいが,たとえ1歯でも動かすと固定源となった歯も移動し,全体的な咬合関係が崩れることも多い.今回のケースでは限局的な装置で済んでいるが,場合によっては多数歯にわたりマルチブラケット装置を装着しなければならないことも多く,結果的には全顎的な矯正治療と変わりなかったということもありうる.「木を見て森を見ず」という状態にならないように,今後も矯正治療には必須の基本的な診断資料をしっかり採り診断し,治療を行ってもらいたい.また,今回は若年者といっても第二大臼歯が萌出し,永久歯列完成期のケースで,もし今後,混合歯列期前期~後期の咬合誘導も行う予定であれば,さらに幼児・小児から成人期までの成長発育を学び,「ゆりかごから墓場まで」患者とともに歩み,患者の健康寿命の伸展をはかるための包括的な治療および予防歯科診療を行っていただきたい.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2017年8月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

Doctorbook academy

本サイトは、歯科医療に従事されている皆さまを対象に情報提供するサイトです。

あなたは歯科医療従事者ですか?
※一般の方は患者向けサイトDoctorbook をご覧ください


Facebook ログインの確認

Doctorbook academy は Facebook ログインをサポートします。

Facebook アカウントより必要な情報を取得します。
許可する場合、YES を押して Facebook 連携に進んでください。 誤って Facebook ログインを選んだ場合は NO を押してください。