Key tooth を矯正的挺出により 保存した症例
<この症例はザ・クインテッセンス2017年11月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201711.pdf
#key #tooth #骨格性下顎前突 #矯正的挺出
【患者】
37歳,男性.痩せ型・神経質.説明に耳を傾け,治療には協力的であるがプラークコントロールはあまりうまくない.
【主訴】
下顎右側臼歯部舌側が腫れて,咬むと痛い.
【歯科既往歴】
前医にて大臼歯部を抜歯したが,抜歯時期・理由は覚えていない.欠損は困っていないため,処置せずに放置している.
【診査・診断】
右下4番舌側に明らかな腫脹とサイナストラクトを認めた.歯周検査ではポケットは認められず,動揺もなかった.同部位付近の咬合診査を行い,右下5番4番に咬合痛を認めたため,デンタルエックス線撮影を行った.右下4番根尖部に透過像を認めたため,根尖性歯周炎と診断し,通法どおり根管治療を行うこととした.
【治療計画】
痛みの部位・所見,エックス線写真の説明を患者はすぐに理解してくれた.右上7番6番,右下7番に欠損もある.これ以上歯を失いたくない気持ちも強く,治療経過が悪ければ外科的処置も検討することを提案し,患者も同意を示した.
【自己評価】
右上7番6番が2本とも喪失しており,歯式上は何かしらの欠損補綴を行わなければ,危機的な局面に移行すると思われる状態であった.しかしながら本症例では,下顎が前方に1歯分ズレた特殊な咬合状態にあることで,この歯数でも欠損進行を抑えているのだと考えた.ここで右下5番を失うことで,咬合支持のバランスを崩すと,今後欠損進行が加速するおそれがある.矯正的挺出を行い,フェルールを確保して補綴できたことは,歯の長期維持に非常に有意義であったと考える.
【今後の課題】
デンタルエックス線写真での破折の予兆を見逃していた.もっと研鑽を積んで広い目で診断できるようになりたい.現在は均衡がとれて安定しているかもしれないが,プラークコントロールが上手ではないため,う蝕から再度危機的状態に陥らないようにリコールしていく必要を感じている.
本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php
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この症例へのコメント
近年,予後に不安を残す歯に対して,保存に力を注がずインプラントに置き換えるケースもしばしばみられるなかで,まずは生体がもつ財産である天然歯をできる限り残すことに真摯に力を注ぐ臨床姿勢に好感をもって拝読した.
右下5番の近心垂直性骨欠損に目がいき,当初は歯周疾患によるものと疑い,サイナストラクトは右下4番の根尖病変が原因との診断をしたものと推察する.ゆえに臨床症状と各種所見から第一に右下4番の根尖病変への対処を考えれば,当然通法に則したこのような流れになろう.
中島先生は治療経過中,右下5番の歯冠部破折をきたしたことに対し,見落としたとの自己評価をしているが,臨床現場では往々にして複合した症状や所見により主たる病因がマスクされる場合もあり,治療と病態変化の推移をみながら再評価して,病因を修正しなければならない場面も経験する.診断的治療の必要性から,肉眼的,エックス線的所見,臨床症状からもっとも可能性が高い病態から着手することは当然であろう.とくに本症例の場合,
右側は短縮歯列であり,右下4番の治療の優先性から右下6番5番に咬合支持域を委ねたことも理解できる.
だからこそ右下5番への対処については,やはり第一の選択肢は天然歯の保存に努める治療方針を進めるべきであり,たとえ破折していてもまず保存という中島先生の天然歯へのこだわりには同調する.またエクストルージョン後の骨内歯根長が記されていないが,比較的長いメタルコアにもかかわらず横破折のために挺出距離が比較的少なく済み,骨内歯根長を確保できたことは幸運であった.短縮歯列の咬合支持歯のため,あえて連結したことは力学的に効果的であろう.
<このコメントはザ・クインテッセンス2017年11月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
診査は全体像から局所へ進めることが基本であるが,誌面の都合からか全顎的な診断・治療計画等については骨格性下顎前突症,短縮歯列から引き起こされる同部の病態予測以外は詳しく記されていない.おそらく中島先生ならば全顎的な診査・治療に関しても考慮されていると推察するが,日々の臨床ではつねに対咬関係の評価等,大局から局所へ診査を進める習慣をつけるとよい.
確かに骨格性下顎前突症とみられるが,歯列矯正での対応は可能かどうか歯科矯正学的診断のもと,下顎のクラウディングを解き適正歯列に導くことができれば,犬歯もガイドに参加させられた可能性はなかっただろうか.つねに連携・意見交換できる矯正専門医とのチームづくりは必須である.局所的には,根管治療に先立ちサイナストラクトからガイドを入れて病因部位を確認すること,エクストルージョンにあたりもう少し時間をかけた挺出で近心の垂直性骨欠損を是正することなど,もう一歩突っ込んだ対応も考慮に値する.
今後の問題として咬合関係は変わっていないため,力学的には今までと同じ条件であることから,慎重な経過観察と力の影響を見逃さないことが肝要と思われる.今後もさまざまな症例を経験して自身の臨床を熟慮しつつ,さらなる高みをめざしていただきたい.
<このコメントはザ・クインテッセンス2017年11月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>