Doctorbook academy

手嶋将人

Gerber理論に基づいた 総義歯製作を行った一症例

<この症例はザ・クインテッセンス2018年2月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>
https://storage.googleapis.com/academy-doctorbook-jp/files/quint/201802.pdf
#Gerber理論 #無圧的印象採得 #総義歯製作


【患者】
92歳,女性.全身疾患はなく補助なしで歩行ができる.娘家族と同居しており,平日はデイサービスへ通っている.性格は明るく社交的で人との会話を何よりも楽しみにしている.歯科治療にも協力的である.

【主訴】
会話時に,口を手で覆わなければ入れ歯が飛び出る不安があるため,安定した浮かない入れ歯をつくってほしい.

【歯科既往歴】
8 年前に上下顎総義歯を製作.なかなか義歯に馴染めずに使用時における痛みや装着時の違和感があったが,その都度,調整を繰り返して現在に至る.

【診査・診断】
①下顎に水平的な重度歯槽骨吸収を認め,支持域が狭い.
②旧義歯は,義歯床辺縁が咀嚼粘膜に限局して過小であった.
③Willis法で咬合高径が低位であり,ゴシックアーチを描記した結果,下顎位の前方偏位を認めた.

【治療計画】
本症例では印象採得が重要であると考えた.MaxBosshart氏によるGerber理論に基づいたデンチャーコースで学んだ手法で,咀嚼粘膜には基礎維持が得られた無圧的印象,一部被覆粘膜には閉鎖維持を期待した選択加圧印象を行って義歯製作を行う計画を立案した.治療内容を説明している際の本人の表情は真剣そのもので,義歯新製に対する強い想いが感じられた.

【自己評価】
Max Bosshart氏より学んだ理論にて総義歯製作を行ったことで臨床が大きく飛躍し,同時に患者の満足が得られる総義歯を製作できた.しかし,慣れていない手技の無圧的印象採得で来院回数を増やしてしまい,患者への精神的,肉体的負担をかけてしまったことは反省点である.

【今後の課題】
Max Bosshart氏から印象採得法の他,模型分析の重要性,ゴシックアーチ描記法,顎関節とコンディレーター咬合器との調和など,多くのことを学ぶことができた.しかし,まだ十分に会得できておらず,真の患者利益にはなっていないのが現状である.さらに研鑽を積み, 1人でも多くの総義歯装着者の利益と幸福に寄与できるようにしたい.

本誌はこちらから
https://www.quint-j.co.jp/web/theQuintessence/index.php

この症例へのコメント

  • 五十嵐尚美

     症例は,高齢に加えて重度に顎堤が吸収しており,旧義歯は咬合高径の低位,長期の粘膜面不適合であり,総義歯新製において多くの問題点を解決しなければならない.とくに,下顎の重度吸収した顎堤の印象採得は,困難であると推測した.
     Max氏より,印象採得において,下顎ではサブリンガルロールの封鎖,頬棚部の外斜線まで延長,上顎では上顎結節部外側弁維持の重要性について学んだことが印象体に生かされている.また,可塑性材での印象採得の重要性を理解され,酸化亜鉛ユージノールペーストを選択されたこともよかったと考える.印象体も印象材が抜けたり,剥げたりしておらず,トレーの調整も印象圧も適切であったと考えられる.なお,写真では患者は自然な顔貌を回復されており,適切な咬合高径の設定であったと思われる.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2018年2月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

  • 五十嵐尚美

     Max 氏は,新製前の前処置の重要性も説かれていた.本症例の問題点として,咬合の低位と支持面積に対して小さな床縁の旧義歯と術者が診断しているのであれば,まず旧義歯もしくは旧義歯のコピーデンチャーで義歯床縁の再設定,咬合再構成を行い,患者の許容を確かめるべきであったと考える.また,本症例では顎位の再設定が必要なため,ゴシックアーチの術前描記,咬合再構成後の描記,新義歯製作中の描記が必要である.示されたゴシックアーチ描記(下顎描記板)でも,右側方運動時の描記のサイドシフトと疑われる描記も見受けられるため,顎機能をはじめ経時的な変化をダイナミックフェイスボウのレジストレーションを含めて診断すべきであったと考える.
     ただ,初めて使用された酸化亜鉛ユージノール印象材での印象採得で,適切に行われているのを拝見させていただき,着実に結果を残されていると感じている.引きつづきGerberメソッドやその他の勉強に努め,患者利益のために研鑽を重ねていただきたい.また,若輩者の私も一緒に勉強していきたいと感じている.

    <このコメントはザ・クインテッセンス2018年2月号「MY FIRST STAGE」に掲載されたものを一部抜粋したものです。>

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