名古屋帰りの先輩と、診療終わりの後輩。西麻布で交わる夜
西麻布「amphis」で過ごす夜
19時頃、西麻布。
この夜、同じ店を目指していた2人の歯科医師は、それぞれまったく違う場所からやって来た。
岡野 修一郎 先生、40歳。
この日は名古屋での仕事を終え、東京へ戻ってきたばかりだった。
浅賀 勝寛 先生、38歳。
こちらは自身のクリニックで一日の診療を終え、その足で西麻布へ。
歯科医師としては岡野先生が先輩で、浅賀先生が後輩。
日中の2人を知る人なら、診療や仕事の場で顔を合わせる姿の方が馴染み深いだろう。
けれど、今夜の待ち合わせは診療室でも学会会場でもない。
西麻布の「amphis」。
以前から、2人が一度訪れてみたいと思っていた店だった

世界で注目のアライナー矯正医。この日は名古屋出張から東京へ戻り、そのまま西麻布へ。

若手のトップランナー。自身のクリニックで診療を終え、店で岡野先生と合流した。
長谷川稔の“次”なら、見ておきたい
食への関心が高い人なら、「長谷川稔」の名前に反応する人は少なくない。
その動向を追うのはフーディーだけではなく、料理人も同じだ。
西麻布の「長谷川稔Lab.」は、グループにとって新たな試みを形にする場所として知られている。
現在、そのひとつの空間を共有しているのは、店名もジャンルも異なる2つのレストラン。
その一方が、フレンチの「amphis」である。
岡野先生と浅賀先生は、以前から長谷川稔氏の店を好み、系列店にも足を運んできた。
だから、新たな店が西麻布にできたと知れば、気にならないはずがない。
話題だから行ってみる、というのとは少し違う。
これまで好きだった店の、その先にあるものを見てみたい。
2人にとって「amphis」は、そんな一軒だった。

診療室ではしない話も、ここではする
カウンターに腰を下ろす。
一日の仕事を終えたとはいえ、2人の会話から歯科の話がなくなるわけではない。
最近の診療のこと。
それぞれの仕事のこと。
これから考えていること。
同じ仕事をしているからこそ説明せずに済むこともあれば、先輩と後輩だからこそ聞けることもある。
ただ、診療室で交わす会話とは少し違う。
料理を待ちながら話し、グラスを傾け、別の話題へ逸れていく。
仕事の話をしていたはずが、いつの間にか店の話になり、次に行ってみたい場所の話になる。
食事の席では、そのくらい話が行き来する方が自然だ。
2歳差の先輩と後輩。
そんな肩書きだけでは説明しきれない距離感が、この夜の写真には写っている。
まず視線を奪ったのは、“季節”そのものだった

コースの序盤に登場したのは、「季節を彩るジオラマの前菜」。
テーブルに置かれると、それまで互いに向いていた2人の視線が、自然と中央へ集まった。
ひとつひとつの料理を先に確認するというより、まず全体を眺めたくなる。
この夜、料理について細かな説明を重ねるつもりはない。
ただ、会話が一度止まり、2人が同じものを見る。
レストランで過ごす時間には、そういう瞬間が確かにある。
そして、料理を口にすれば、また何事もなかったように会話が始まる。
38歳と40歳。店の選び方にも、経験は出る
20代の頃と今とでは、店を選ぶ基準も少し違う。
予約が取りづらい。
いま話題になっている。
誰かがSNSに載せていた。
もちろん、それも店を知るきっかけにはなる。
けれど、それだけで予約を入れることは以前より少なくなっていく。
誰が手掛けているのか。
以前、その人の料理を食べてどう感じたのか。
そして、今度の店には誰と行くのか。
店選びには、これまでの経験が少しずつ積み重なっていく。
岡野先生と浅賀先生にとって、「長谷川稔」という名前は、そのひとつだった。
過去に足を運び、また行きたいと思った。
だから、新しい店が生まれれば確かめたくなる。
38歳と40歳。
仕事でも食事でも、自分が好むものを以前よりはっきり選べる年齢になっている。
カウンターの先で、和牛にナイフが入る

コースが進み、カウンターの向こうに現れたのは、和牛のパイ包み。
シェフが目の前でナイフを入れる。
自然と2人の視線もその手元へ向いた。
料理が運ばれてくるのを待つだけではなく、最後の仕上げまで同じ空間で見る。
カウンターという距離だからこそ、料理が一皿になるまでの時間も食事の一部になる。
切り分けられた和牛のパイ包みが皿に置かれる。
岡野先生が料理へ視線を落とす。
その向かいでは、浅賀先生が何かを話している。
食べて、話す。
また食べて、話す。
この夜の料理は、2人の会話を止めるものでも、会話のための背景でもない。
その両方を行き来しながら、夜を進めていく。
西麻布のカウンターで見えた、2人の距離
岡野先生の一日は、名古屋から始まった。
浅賀先生は、自身のクリニックで患者と向き合っていた。
昼間はまったく別の場所にいた2人が、この夜は西麻布の同じカウンターに座っている。
世界が注目するアライナー矯正医、40歳。
若手歯科医師のトップランナー、38歳。
普段なら、それぞれ別の場所で名前を聞く2人だ。
岡野先生が話し、浅賀先生が聞く。
今度は浅賀先生の言葉に、岡野先生が耳を傾ける。
話題は診療のことだけではない。
料理が運ばれれば自然とそちらに視線が移り、ひと口味わえば、また会話の続きを始める。
先輩と後輩。
けれど、それだけでは語れない関係が、数時間の食事の中に垣間見える。
仕事の場では見えにくい、その人の距離感や選ぶもの。
そうしたものまで含めて、ひとつの夜は記憶に残っていく。
いい店を知るより、「誰と行くか」を決められる方がいい
レストランの情報はいくらでも手に入る時代になった。
予約困難店も、新店も、料理の写真も、調べればすぐに見つかる。
だから、「知っている」ということだけには、以前ほど価値はないのかもしれない。
それよりも。
店の名前を見たとき、誰と行こうかと思えること。
その方が、食事をずっと面白くする。
岡野先生にとって、この夜の相手は浅賀先生だった。
浅賀先生にとっては、仕事を終えてからでも西麻布まで足を運びたいと思える先輩だった。
名古屋から戻った40歳と、診療を終えた38歳。
別々に始まった一日が、西麻布の「amphis」で交わった。
食事を終えれば、またそれぞれの日常へ。
次の約束は、まだ決めなくてもいい。
きっとまた気になる店ができた頃に、どちらかが連絡する。
そんな関係も、悪くない。

Amphis(フレンチ)
席数|6席
料金|コース3万250円、ペアリング+2万2000円(税込・サ別)
場所|東京都港区西麻布4-2-2 バルビゾン92-3階
時間|ディナー 17:30~、20:30〜
定休日|月曜、土曜、日曜
予約:https://omakase.in/r/im190147
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