第148回日本歯科保存学会”参加レポート”②
2018年6月14-15日、横浜みなとみらいホールにて第148回日本歯科保存学会2018年度春季学術大会が開催されました。
日本歯科保存学会は、「健康で丈夫な歯をいつまでも」というコンセプトを元に、歯を抜くことなく、いつまでも自分の派手噛めるように治療を行い、大切な歯を口の中に維持、保存し機能させていくための研究教育を目的とした3つの専門分野、「保存修復学」「歯内療法学」「歯周病学」に関わる人々の集まりです。
大会長 石井信之先生
今回は第148回の大会長に神奈川歯科大学大学院口腔統合医療学講座歯髄生物学分野の石井信之先生を迎えて、保存治療を基盤とせた歯科医療のみらい戦略を探ることを目的として「Future Strategy」をテーマとしています。
第148回日本歯科保存学会春季学術大会の様子をレポートとしてまとめました。
15日はまず会場の特徴であるパイプオルガン演奏から始まりました。
《一般演題研究発表》
座長に田上 順次 先生(医科歯科大院)林 美加子 先生(阪大院歯)を迎えて6人の先生の研究発表が行われました。
学会主導型シンポジウム「超高齢社会における歯科医療のFuture Strategy」
ライフステージから診るライフストラテジー
住友 雅人 先生 日本歯科医学会会長
「臨床で最も触れる「う蝕と歯周病」は歯の喪失2大因子です。」とお話されるのは日本歯科医学会会長である住友雅人先生。
大変多忙である住友先生は講演と講演の合間を縫って日本歯科保存学会でお話頂きました。
超高齢社会を迎え高齢者へのQOLが注目されていますが、高齢期における口腔機能維持には小児期の口腔機能不全症:摂食機能不全への改善や歯科医療としてのアプローチの重要性を指摘し、まさに年齢やその時の状態にあった歯科医療のあり方をお話していました。
「文化は耳や目、口、全てで感知ることはできるが文化が出るのは口しかない」ーQOL向上に口腔機能の改善・維持は欠かせないことを示しました。
超高齢社会における歯科医療のFuture Strategy
今井 裕 先生 一般社団法人有病者歯科医療学会理事長 日本歯科医学会総務理事 獨協医科大学名誉教授・特任教授
超高齢者ということはハイリスク患者であり有病者の歯科医療システムは欠かせません。
健常者が歯科医院に来院する従来型の歯科医療から、超高齢者社会に伴い今後は在宅医療へとシフトしつつあります。その中で地域包括ケアシステムにどう歯科医療が対応していくかお話しました。今後日本の歯科医療が生き残るためには、摂食機能療法がいかに欠かせないかを熱くお話していただきました。
超高齢社会における歯科保存治療のFuture Strategy
與地 隆史 先生 東京医科歯科大学(TMDU)大学院医歯学総合研究科 口腔機能再構造学講座 歯髄生物学分野
歯の残存歯数と要介護度や認知症との関連性からして、やはり歯を保存しいかに健康寿命を延ばしていくかが超高齢社会における歯科医療従事者の役割とも言えます。
與地 隆史 先生は高齢者の根面う蝕、歯周病罹患や難症例の増加・対応について述べ、さらにやはり高齢者ばかりではなく、若年者の歯を守ることがFuture Strategyであると指摘されました。
歯髄温存療法の多様性に触れ、また高齢者の根面う蝕が増加していることや狭窄した根管への根管治療、有病者への保存領域の治療の難易度の高さを指摘されました。
ただ歯個々の保存ばかり考えるのではなく、患者さんの社会的・生活的背景や今後の健康寿命を考慮したオーダーメイドの歯科医療を提供していくことが重要であるとお話されました。
《シンポジウムⅡ》「歯質接着システムの現在と未来への挑戦」
接着歯学が変える現代の修復治療
北原 信也 先生 TEAM 東京 ノブレストラティブデンタルオフィス
「接着は歯科の三大革命の一つであり接着によって臨床の幅が広がった」とお話するのはTEAM 東京ノブレストラティブデンタルオフィスの北原信也先生。
北原先生は接着の中でもラミネートベニア修復についてお話しいただきました。
ベニアの基本は形成をエナメル質内に留めること、、、しかし臨床上は全てをそうすることは難しいです。
「Function機能」「Structure構造」「Biology生物学的恒常性」の3つの面からポーセレンラミネートベニアの接着を歯とレジン、レジンとセラミックに分けてお話しいただきました。
ご自身の研究からたどり着いた接着法から最終的に完全に分離してしまった破折歯の接着まで短い時間で盛りだくさんの内容です。
歯—接着材界面のナノレベル微細構造解析―樹脂含浸層とスミヤー層は今どうあるのか―
峯 篤史 先生 大阪大学大学院歯学研究科 クラウンブリッジ補綴学分野
ルーベン・カトリック大学(ベルギー王国)へ留学し、透過型電子顕微鏡を用いた「歯-接着材界面のナノレベル微細構造解析」を取得した、大阪大学大学院歯学研究科 クラウンブリッジ補綴学分野の峯 篤史先生。
ハキハキとした喋り口調で現在の接着システムの3つの疑問について1つずつお答えいただきました。
・セルフエッチングではスミヤー層はどうなるのだろうか?
・マイルドの接着剤を用いた場合樹脂含浸層どのような状態か?
・エナメル質接着接着におけるマイルドタイプ接着のみの仕様とリン酸併用にはどのような相違があるだろうか?
最後に未来への挑戦として、目指していきたい接着を3つあげて、今後の研究の期待へとつなげていきました。
良好な予後を得るための接着耐久性獲得
宮崎 真至 先生 日本大学歯学部保存学教室修復学講座
今話題の日本大学のお話を少し触れながら歯学部のご紹介をしていったのは日本大学歯学部保存学教室修復学講座の宮崎真至教授。
お得意の動画と音楽を交えたスライドで「前歯部破折のCRの臨床症例」そこから「15年前のCRの変色や褐線」のお話「リン酸エッチングの効果」や「エナメル質少柱の走行」について駆け足でお話していきました。
トピックとして象牙質接着のカルシウム誘導のイオンの話や生体活性ガラスの接着のお話もしていきました。
最後に充填は面白いテクニックですがそれを支える接着をよく知らなければならないと締めくくりました。
《シンポジウムⅢ》「一つ上の歯内療法を目指すための理論と臨床」
再治療(Retreatment)の勘所
阿部 修 先生 医療法人社団平和歯科医院
近年では根管内細菌に有効な効率的洗浄方法やpulp regeneratuion:歯髄再生療法などの研究や、Ni-Tiファイル、CBCTやマイクロスコープの応用が普及しつつあり、エンドを取り巻く環境は著しく変化してきました。
ただここ20年間の系統的研究で報告される歯内療法の成功率はいずれも変化がないことを指摘したのは、東京都武蔵野市でご開業の阿部修先生。
治りにくい再根管治療の原因として、
・感染源の存在
・パーフォレーション
・根尖孔外部感染
・破折、マイクロクラック
が挙げられそれぞれに対応できる臨床技術・診断能力が必要と説明。
限られた時間のなかで実際の臨床やその後の予後、エビデンスを丁寧に説明していただきました。
初回治療の勘所(Initial treatment)
木ノ本 喜史 先生 医療法人豊永会きのもと歯科 大阪大学大学院歯学研究科臨床教授
初回治療、つまり抜随で感染させずにオリジナルの根管携帯を維持することが今後の歯の生存率に大きく関わります。
バージンの根管は再根管治療と比べると難易度は高くはないが、決して易しくはありません。
木ノ本先生は最初に、抜髄にはそれぞれの要所要所でセオリーがありクリニカルパスのようなルールがあると説明しました。
「う蝕除去の重要性」
「逆ネジを意識したファイル操作」
「ガッタパーチャーの限界を意識した築造」
など、ぞれぞれの要所での留意するポイント・効率の良いインスツルメントとその使い方・見分け方を説明し実際の症例や抜去歯を例にテンポよくお話ししていました。
お二人のご講演は合わせて1時間というかなり限られた時間の中でのご講演であり、
終了後はベテランの開業医や大学の先生はもちろんのこと、終了後若手歯科医師を中心に個別での質問が絶えない素晴らしいシンポジウムでした。
阿部先生・木ノ本先生、さらに新潟大学医学総合研究科 口腔健康科学講座 野杁由一郎先生を迎え、弊社7月22日開催のセミナー『私が受けたいエンド治療の真髄 ~細菌に打ち勝つ歯内療法の勘所~』にてお話いただきます。
ご興味のある先生はお席に限りがございますのでお早めにお申し込みください!
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会場の様子
企業ブース出展やポスター発表も賑わいを見せ活気のある学会でした。