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2017年5月8日(月)

【解説】ガイドラインに基づく抗菌薬の選択基準-歯科領域-

2017年2月27日、WHO(世界保健機関)は、多剤耐性菌の中でも、特に警戒が必要な12の菌のリストを初めて公表しました。(※1)現在、様々な耐性菌の出現により、抗菌剤の適正利用の必要性が世界的に叫ばれています。
日本では、政府主導で薬剤耐性(AMR)対策アクションプランを決定し、抗菌薬の使用量を2020年までに3分の2まで削減することが目標となりました。2017年3月27日には『抗微生物薬適正使用の手引き』第一版案を厚生労働省のHPで発表しています。。(※2)
歯科の領域においても、抗菌剤を処方する機会は多いですが、どのような薬剤選択が推奨されているのでしょうか。
今回は、歯性感染症における抗菌薬の選び方についてご紹介いたします。

■目次:
1.歯性感染症の分類
2.歯性感染症の起炎菌
3.歯科における経口抗菌薬の選び方

  • 歯科全般
【解説】ガイドラインに基づく抗菌薬の選択基準-歯科領域-

1. 歯性感染症の分類

歯性感染症は以下の1群から4群に分類されます。

1群:歯周組織炎
2群:歯冠周囲炎
3群:顎炎
4群:顎骨周囲炎

1群の歯周組織炎は、主に「根尖性歯周組織炎」と、「辺縁性歯周組織炎」に分かれます。

根尖性歯周組織炎は歯髄感染から発生するもので、
歯髄炎が根尖性歯周組織に波及するケースや、根管処置の術後感染により発生するケース等があります。

辺縁性歯周組織炎は、いわゆる歯周病です。
歯と歯肉の間にプラークが付着して、歯肉溝常在菌による感染から炎症が発生します。

根尖性歯周組織炎や辺縁性歯周組織炎が原因となり、
歯肉膿瘍、歯槽膿瘍、口蓋膿瘍などを形成する場合もあります。

また、抜歯後に起こる表在性骨炎や、抜歯後感染もここに含まれます。

 

2群歯冠周囲炎は、主に埋伏智歯が原因となる炎症です。

智歯の萠出不全によって発生する化膿性炎症で、発赤、腫脹、排膿が認められます。

膿瘍が認められることは少ないですが、埋伏智歯周囲の軟組織を通って炎症が拡大し、
3群の顎炎や4群の蜂巣炎といった重症炎症に発展する危険性があります。

 

3群顎炎は、骨炎、骨髄炎など、1群や2群と比較すると重症なものになります。

1群の歯周組織炎や2群の歯冠周囲炎が顎骨骨体部へ拡大することによって発症する、
急性の骨炎及び骨髄炎もここに含まれます。

抗菌剤は注射剤を使用するケースも多くなります。

 

4群蜂巣炎は1群~3群から炎症が波及します。

舌下部に炎症が拡大した場合の症状は、舌下部腫脹による二枚舌、著しい開口障害と嚥下痛が、
頬部に拡大した場合は広範囲の発赤と腫脹、膿の貯留などの症状が生じます。

舌下隙、顎下隙、オトガイ下部、翼突下顎隙、咽頭隙等に炎症が進展しするケースもあり、

重篤な感染症と言えます。

 

 

2.歯性感染症の起炎菌

 

歯性感染症の原因菌は好気性菌であるストレプトコッカス(Streptococcus)属(いわゆるレンサ球菌)と、
嫌気性菌であるプレボテラ(Prevotella)属
ペプトストレプトコッカス(Peptostreptococcus)属が中心です。

 

菌の分離頻度は論文により様々ですが、
例えば小林らは、口腔閉塞膿瘍から分離された原因菌3,112株において、
ストレプトコッカス(Streptococcus)属が73%、プレボテラ(Prevotella)属が48%、
ペプトストレプトコッカス(Peptostreptococcus)属が47%の検出頻度だったと報告しています。(※3)

 

比較的軽度な感染症は上記の通りレンサ球菌が最も多く検出されるケースが多いですが、
注射剤が適応になるような中等度から重度の感染症、及び抗菌薬が既に投与され無効であった症例では、
嫌気性菌の検出率が高くなる傾向にあります。

 

嫌気性菌、その中でも特にプレボテラ(Prevotella)属はβラクタマーゼ産生株が多く分離され、
ペニシリン系やセフェム系など、βラクタム系の抗菌薬に耐性を持つことがあるため注意が必要です。

 

 

3.歯科における経口抗菌薬の選び方

 

歯性感染症に対する抗菌薬効果判定の目安は3日とされ、
増悪の際は外科的消炎処置の追加、他剤への変更を考慮します。

 

米国歯周病学会では、歯性感染症における各種抗菌薬の投与期間はおおよそ8日間程度としています。(※4)

 

1群や2群の比較的軽度な歯性感染症であれば、ペニシリン系抗菌薬が第一選択となり、
ペニシリンアレルギーのある患者さんには、
リンコマイシン系もしくはマクロライド系の抗菌薬を選択
します。

膿瘍を形成している症例では切開などの消炎処置を行った後、抗菌剤の投与を行います。

 

3群・4群の重度の感染症については、
βラクタマーゼ産生嫌気性菌の検出頻度が高いため、

βラクタマーゼ阻害剤配合のペニシリン系抗菌薬が第一選択となります。

 

JAID/JSC感染症治療ガイドライン2016では、
経口抗菌薬の選択を下記の通り推奨しています。

 

なお、同ガイドラインの推奨グレード及び文献エビデンスレベルは,
日本感染症学会・日本化学療法学会の定める「感染症治療ガイドライン作成要綱」に従っています。

 

推奨グレード

A:強く推奨する
B:一般的な推奨
C:主治医による総合的な判断

 

文献エビデンスレベル

Ⅰ:ランダム化比較試験
Ⅱ:非ランダム化比較試験 
Ⅲ:症例報告
Ⅳ:専門家の意見

 

軽度~中等度感染症の場合

  製品名 一般名 分類 推奨グレード エビデンスレベル
基本

サワシリン

パセトシン

アモリン️

アモキシシリン ペニシリン系 A
ペニシリンアレルギーがある場合 ダラシン クリンダマイシン リンコマイシン系 B
ジスロマック アジスロマイシン マクロライド系 B

クラリス

クラリシッド

クラリスロマイシン マクロライド系 B

表:「JAID/JSC感染症治療ガイドライン2016」を元にDoctorbookが作成

 

 

一般的なクリニックで治療する機会の多い軽度~中等度感染症については、
ペニシリン系抗菌薬であるアモキシシリン(サワシリン®等)が第一選択です。

 

ペニシリンアレルギーのある場合、クリンダマイシン(ダラシン®)
もしくはアジスロマイシン(ジスロマック®)を選択します。

 

クリンダマイシン(ダラシン®)は、肝障害のある患者及び腎障害のある患者、
大腸炎の既往がある患者は慎重投与となっているため、
そのような場合はアジスロマイシン(ジスロマック®)を選択するのが好ましいと考えられます。

(ただし、アジスロマイシンも重篤な肝障害患者には慎重投与)(※5、6)

 

アジスロマイシン(ジスロマック®)を始めとするマクロライド系の抗菌薬は
広い抗菌スペクトラムを持ち、
特徴的な副作用もないため使いやすいですが、
近年耐性菌の増加が指摘されており注意が必要です。

 

また、代謝酵素のチトクローム450(CYP450)を阻害する作用をもつため、
同酵素で代謝されるワーファリンやシクロスポリンは併用注意となっています。(※6)

 

重度感染症の場合

  製品名 一般名 分類 推奨グレード エビデンスレベル
基本 ユナシン スルタミシリン ペニシリン系 C -

オーグメンチン

クラバモックス

アモキシシリン/クラブラン酸 ペニシリン系 C -
ビクシリン アンピシリン ペニシリン系 C -
ペニシリンアレルギーがある場合 ダラシン クリンダマイシン リンコマイシン系 C
ケフラール セファクロル セフェム系 B -
グレースビット  シタフロキサシン ニューキノロン系 C

表:「JAID/JSC感染症治療ガイドライン2016」を元にDoctorbookが作成

 

 

3群・4群の重度の感染症については、βラクタマーゼ産生嫌気性菌を考慮し、
βラクタマーゼ阻害剤配合のペニシリン系抗菌薬が第一選択となります。

 

スルタミシリン(ユナシン®)については、
社会保険診療報酬支払基金審査情報において、

手術創などの二次感染,顎炎,顎骨周囲の蜂巣炎に処方した場合,
当該使用事例を審査上認めるとされています。
(※7)

 

 ペニシリンアレルギーのある場合、
推奨グレードが相対的に高いのはセファクロル(ケフラール®)ですが、
ペニシリンアレルギー患者の約15%程度は、
セフェム系抗菌薬にもアレルギーを有するので注意が必要です。

 

効果が認められない場合

  製品名 一般名 分類 推奨グレード エビデンスレベル
ペニシリン系薬およびセフェム系薬の効果が認められない時 グレースビット  シタフロキサシン ニューキノロン系 C
ファロム ファロペネム ペネム系 C -
表:「JAID/JSC感染症治療ガイドライン2016」を元にDoctorbookが作成

 

 

炎症の進行期でペニシリン系薬およびセフェム系薬の効果が認められない場合は、
第二選択として、シタフロキサシン(グレースビット®)
もしくはファロペネム(ファロム®)を使用します

 

急性炎症症状が著しく,開口障害,嚥下困難を伴う重症の顎炎(3 群),蜂巣炎(4 群)の場合は
入院加療が望ましいとされています。

この場合は、原因菌を同定し、適切な注射用抗菌薬を使用することが重要です。

また、切開排膿もこうした症例では重要となります。

 

 

4.まとめ

1. 歯性感染症の起炎菌は、主にレンサ球菌嫌気性菌。

 

2. 抗菌薬の効果判定は3日投与期間は8日程度が目安。

 

 

3. 軽度~中等度の歯性感染症は、起炎菌をレンサ球菌と想定して
アモキシシリン(サワシリン®等)が第一選択

 

 

4. 軽度~中等度の歯性感染症で、ペニシリンアレルギーのある患者さんの場合は、
状況に応じてクリンダマイシン(ダラシン®)アジスロマイシン(ジスロマック®)を選択。

 

 

5. 重度の歯性感染症の場合、嫌気性菌の検出頻度が高く、βラクタマーゼ産生率も高いため、
βラクタマーゼ阻害剤配合のペニシリン系抗菌薬を選択

 

 

 

【参考文献】

1) http://www.who.int/mediacentre/news/releases/2017/bacteria-antibiotics-needed/en/

2) http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000156500.pdf

3) 小林寅喆:歯性感染症原因菌と各種抗菌薬の抗菌力,歯科におけるくすりの使い方 2011-2014,
    デンタルダイ ヤモンド社,東京,2010;p.51―3

4) JAID/JSC感染症治療ガイドライン2016 -歯性感染症-
        一般社団法人日本感染症学会、公益社団法人日本化学療法学会
        JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会、歯性感染症ワーキンググループ

5) ファイザー株式会社:ダラシンカプセル75mg/ ダラシンカプセル150mg添付文書
    2013年11月改訂 (第3版)http://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ph/PDF/671450_6112001M1031_2_04.pdf

6) ファイザー株式会社:ジスロマック錠250mg添付文書
   2016年9月改訂 (第22版)
   http://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ph/PDF/671450_6149004F1028_2_13.pdf

7)社会保険診療報酬支払基金HPより

http://www.ssk.or.jp/shinryohoshu/teikyojirei/yakuzai/index.files/y_jirei_all_code.pdf#search=%E3%83%A6%E3%83%8A%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%80%80%E9%A1%8E%E9%AA%A8%E5%91%A8%E5%9B%B2%E3%81%AE%E8%9C%82%E5%B7%A3%E7%82%8E

 

 

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