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Dr.スギタの学会で使いたいホテル&旅館 体験記 星のや東京編

2019年11月19日(火)


大手町にある日本旅館



学会が終わった夕方、夏の湿り気を帯び始めた大手町を歩く。


 


今でこそ一大金融街となったこの一帯は、徳川家康が江戸に入った当時、浅海が広がるだけの場所だったという。徳川家康の指示のもとに埋め立てられた後は、日本の要所を担い続けてきた。歴史の足跡を残しながらも進化を続けていくこの街に、不思議と愛着を感じずにはいられない。


今日の宿は星のや東京。都会のど真ん中にある日本旅館。


日本旅館は、西洋式ホテルに押されて東京ではほぼ見かけなくなってしまった。そんな中、東京の中心地にあえて“日本旅館”を作ったのが星のや東京だ。


東京で旅館に泊まってみるのもいいじゃないか、そう思い立っての宿泊だ。


 


江戸小紋の麻の葉崩しをモチーフにした黒い外観は、遠目から見ると質素だが、近づくにつれて瀟洒な様子になる。江戸小紋は、質素倹約の中で、派手な柄の着物を着られない江戸の庶民が編み出した技だ。


     


 青森ヒバの大きな扉が閉まると、そこは東京の中の異空間。目前に広がるのは、畳、竹細工の靴箱、季節の設えが飾られた縁台。一瞬で都会にいることを忘れ、い草の香りと凛とした静けさに体が包み込まれる。畳が足にひんやりと心地よい。


 



 


 星のや東京の1階にはレセプションはない。玄関からエレベーターに乗って宿泊フロアへ直接上がる。驚いたことにエレベーターも畳だ。小さな和室にいるような感覚。エレベーターの到着音が拍子木であるのも面白い。


 



 


非日常と匠の技で満たされる


案内されたのは、宿泊フロアにある「お茶の間ラウンジ」。茶の間の由来は、茶会に使用する茶室だとも囲炉裏だとも聞いたことがある。いずれも、人々が語り合い、お茶を楽しんだ場所。このスペースは、まさに宿泊者専用の“お茶の間”だ。各々の部屋から出て、旅人同士でお茶を飲みながら語らうのも一興だろう。


 



 


チェックインを済ませて、いざ部屋へ。今夜宿泊するのは「菊」という名の客室。


「菊」の半分の広さである「桜」と迷ったのだが、広々とした空間で思いきり非日常を味わいたかったのでこちらを選んだ。部屋の随所に置かれるインテリアには、ヨーロッパの一流木工職人からも「木工の知識と技術に対しては世界最高峰」と尊敬を集める、戸沢忠蔵氏が主宰するヒノキ工芸の作品がふんだんに置かれている。こういった巨匠の作品を実際に肌で感じられるのも、星のや東京の特徴だ。


 



 


宿のこだわりは随所に現れると思うが、寝所への手のかけ具合も自分にとっては大きなポイントだ。星のや東京の寝所は、布団とベッドの中間の高さであり、畳を近くに感じながらも、地べたの硬さを感じない作り。リネンにもこだわりがあるのが見て取れる。軽やかなコットン素材でありながら、しっとりと手に吸い付くシルクのような風合い。寝るのが楽しみだ。


 



 


大都会に湧き出す琥珀色の温泉


学会の疲れもあり、本心はベッドに今すぐ体を埋めたいところだが、その気持ちを抑え、風呂へ行く準備をする。


クローゼットを開けると、若手のキモノ作家である斉藤上太郎氏がデザインしたキモノが置かれている。見た目は着物だが、動きやすい素材で着心地も抜群。明日の朝、この滞在着でゆったりと皇居周辺を散歩するのもいいかもしれない。


 



 


滞在着に着替えて最上階の温泉へ向かう。


星のや東京に泊まるにあたり楽しみにしていたのが、この温泉だ。大手町で温泉が掘り当てられたのは2014年のこと。三菱地所が手掛けていた大手町再開発の中で湧出した。実は、東京23区の地下数百メートルから2,000メートルほどの間には、かつて海だったところに土砂が堆積しており、その内部には、温泉のもととなる太古の時代の海水が多く含まれているそうだ。大手町の温泉もこうした海水に由来した湯で、塩分が強く、体がよく温まる泉質だという。


 



 


湯の色は、琥珀色。少し舐めてみると、強い塩気を舌に感じる。数分後には額から玉の汗が流れ落ちた。少し涼みたくて、露天へ出る。高い高い吹き抜けの天井から大手町の夕空が見える。オレンジとピンクがまじりあったような夕焼けと、昼の残り香の群青がゆらゆらと溶け合っている。


 



 


風呂から上がると、コーヒー牛乳に目が留まる。なんという心遣いだろうか。少年だった頃、たまに親父と銭湯へ行ったものだ。そのときに飲んだコーヒー牛乳の味が一気によみがえる。


 



 


部屋に戻り、しばし涼んだ後、少し残っていた仕事に取り掛かる。窓の外にはオフィスで働く人々の姿が見える。しかし目を部屋へ戻すとそこは静謐な和空間。このギャップがいい。静けさの中で仕事がはかどる。ふと気づくと外は暗い。手元の明かりだけがぼんやりと周囲を照らしている。予約しておいた夕飯まであと10分程度。いいころ合いなので、ダイニングへと降りる。


 


 


悠久の空間で食す"日本の文化"


ダイニングがある地下へ降りると、地層をイメージしたという空間が広がる。数千年、数億年の時を経たであろう大手町温泉のルーツを想像させる。


 



 


星のや東京ダイニングの料理は芸術品だ。それもそのはずで、フランス・リヨンで開催される世界最高峰の料理コンクール「ボキューズ・ドール」で、2013年に日本人で初めて3位の栄冠を獲得した浜田統之料理長が腕を振るうのだから。


星のや東京で浜田料理長が掲げるのは「NIPPONキュイジーヌ」。日本人のルーツを縄文時代にとらえ、食材を日本の天然の野菜と魚に限定した。彼が作り出す皿には日本の文化が物語られているのだ。


例えば、星のやダイニングを代表する一皿である「五つの意思」。料理によって温かさが変えられた大理石に置かれた食材は、日本料理の「五味」を表現している。


 



 


または「鱧のフリット ウワミズ桜のサバイヨン」。茶懐石の「はじめの一服」に倣い、まずは鱧の出汁でつくったコンソメスープをまずはいただく。米粉の衣で包み揚げられた鱧にはウワミズザクラから作ったソースがかかっている。


 



 


コースのデザートとして提供されるのは「小夏みかんと大葉のグラニテ」。小夏みかんの爽やかな甘酸っぱさと、大葉のほのかな塩味と苦みが感じられる、なんとも夏らしい甘味。シソの香りを移したドライアイスで満たされたグラスからは、さわやかな香りが立ち上る。


 



 


心地よい満腹感に気持ちが満たされ、ゆるりとした眠気を感じる。今日はもう部屋に帰って寝よう。


 


剣術の朝稽古でリフレッシュ



 


目が覚めると朝の6時。すでに外は明るい。滞在着を整え、草履をはいて散歩に出る。大手町を抜け、皇居へ。昨日という日から生まれ変わった朝の空気はなんとすがすがしいのだろう。太陽の光をまとった緑が美しい。土のかすかな湿り気と植物たちの呼吸の薫りを体いっぱいに吸い込む。頭の奥が心地よく痺れる。この感覚にパワーがみなぎってくる。


 


そういえば、朝のアクティビティとして「めざめの朝稽古」があると聞いた。参加してみようかと思いたち、急いで宿に戻る。


 


「めざめの朝稽古」は、剣術の所作をベースに深呼吸を組み合わせたストレッチプログラムだ。剣術は江戸時代に大きく発展し、700以上の流派があったといわれる。星のや東京では、かつて江戸・神田に道場を構えた剣術流派「北辰一刀流」撃剣(げきけん)会の師範に剣術を学べる。幕末の三大道場の一つであった北辰一刀流は、かの坂本龍馬も学んだとされている。


板の間に立つと自然と背中が伸びる。深い呼吸の中で稽古に没頭すると、雑念がすっと消えていく。体中の血が駆け巡り始めるのを感じる。


 



 


朝風呂の後は、しみじみと美味なおむすびを


稽古が終わるとうっすらと汗をかいていた。朝風呂にはちょうどいい。露天へ出ると、朝日が湯気とまじり合いながらきらりきらりと零れ落ちてくる。ここが本当に東京の真ん中だろうかと、また不思議な気持ちになる。


 



 


風呂を出ると急に空腹を覚えた。星のや東京では、朝におむすびを頂ける。朝食は別に予約できるのだが、朝は軽く済ませたかったのでスタッフに注文した。しばらくすると、2つのおむすびとお味噌汁が運ばれてきた。一口ほおばる。うまい。


 



 


チェックアウトの12時まであと2時間。部屋へ戻ってベッドに少し横たわる。


 


静かだ。


大手町の喧騒に囲まれた、圧倒的な静寂の空間。瞼を閉じる。


日々の忙しさに紛れ、じっくりと自身の在り様を考える時間もなかったが、年に数回はこんな静かな空間で一人、いろんなことに向き合うのもいい。


さて、そろそろ日常へ戻ろうか。


 


スタッフに見送られながら出迎えてくれたヒバの扉をくぐる。


忙しく動き回る大手町に一歩足を踏み出す。


 



 


 


星のや東京


https://hoshinoya.com/

 


住所:東京都千代田区大手町一丁目9番1 


TEL :0570-073-066 (星のや総合予約)


料金 :1泊1室 83,000円〜(税・サービス料10%別、食事別) 


 


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