SSF フレッシュカダバートレーニング《参加レポート》
JAPAN DENTAL TRAINING 2018
アメリカ北西部の都市シアトル。Amazonやマイクロソフトなど世界を代表するIT企業の本社が立ち並び、またシアトル系コーヒーを世界中に広めたスターバックス発祥の地でもある。日本ではシアトルマリナーズの本拠地としても知られている。
そのシアトル近郊に施設を構えるSeattle Science Foundation(以下SSF)において、2018年9月7日(金)〜8日(土)の2日間、「JAPAN DENTAL TRAINING 2018 全ての歯科医師のための臨床解剖学に基づいたカダバートレーニングコース IN SEATTLE」が行われた。
米国で日本人歯科医師向けに開催されるセミナーは、大学組織で行われることが多いが、このコースを主催しているSSFという組織は何なのか疑問に思う先生もいらっしゃることだろう。
SSFとは研究・教育・技術・革新を通じて患者ケアの質の向上をめざす非営利団体である。ラボでは毎日フレッシュカダバーを用いた研究・教育が行なわれている。世界中から医療関係者がSSFに訪れる一方、SNSなどを利用し常に世界に情報を発信している。そんな世界をリードする組織で、臨床解剖学や手術手技の講義とフレッシュカダバー実習が2日間に渡り行われ、日本全国から13名の歯科医師が参加した。
講師紹介
岩永 譲 先生
歯科医師・医学博士
(※SSFより写真提供)
東京医科歯科大学卒業後、久留米大学医学部歯科口腔医療センター・解剖学講座を経て、2016年4月にDr. Tubbsに師事するためSSFへ留学。2018年に米国永住権を取得し、同年4月よりAnatomical Researcher and EducatorとしてSSF勤務を開始。現在世界中で臨床解剖の講演活動を行っている。St. George’s University (Granada) 客員教授。
嘉村 康彦 先生
歯科医師・米国歯内療法専門医
(※SSFより写真提供)
東京医科歯科大学卒業後、久留米大学医学部歯科口腔医療センター、開業医(つきやま歯科医院)勤務を経て、コロンビア大学歯学部歯内療法科専門医課程 卒業。米国歯内療法専門医・ハワイ州・テキサス州の米国歯科医師免許を取得している。2017年~ Sigma Dental Specialists Associate Endodontistにて歯内療法専門医として勤務。
田中 毅先生
歯科医師・米国歯周病認定医
(※SSFより写真提供)
東京医科歯科大学卒業後、インディアナ大学歯周病科専門医過程卒業。米国歯周病学会歯周病認定医取得。ボストン大学AEGD プログラム卒業、フロリダ大学補綴科にてアストラインプラントフェロー修了。
そして、 Dr. Tubbs(臨床解剖学の第一人者でありSSFのChief Scientific Officer)による講義と、喜久田翔伍先生(口腔外科医、現在SSF留学中)による通訳・アシスタントも好評だった。
(※SSFより写真提供)
臨床解剖学:岩永譲先生/Dr.Tubbs
まず岩永先生、Dr.Tubbsによる臨床解剖学の講義が行われた。
この講義はただの口腔解剖学の講義ではない。
普段臨床で留意するであろうオトガイ孔や舌神経などのいわゆるメジャーな構造物だけでなく、副オトガイ孔や舌側孔、臼後孔など、
一般的にあまり知られていない構造物についても、CTでの読影ポイントや合併症のリスクなど、念入りに解説があった。
切開での留意点など、早く日本に帰って自分の患者さんのCTを早く確認したくなるような講義であった。
外科的歯内療法・伝達麻酔:嘉村先生
嘉村先生からは外科的歯内療法や伝達麻酔等の講義。
今回実習で行う歯根端切除術と下顎孔伝達麻酔の方法だけではなく、実際の嘉村先生自身の症例を惜しげもなく披露した。
歯周外科・インプラント:田中毅先生
田中先生からは FGG(遊離歯肉移植術)とサイナスリフトなどのインプラント治療に関する講義。
シュナイダー膜の組織学からサイナスリフト(ラテラル・オステオトーム)やショートインプラントの適応などオーソドックスな内容から応用までを圧倒的なエビデンス量で示した。
米国で実際に使用している器具や機材、方法などのより臨床的な内容にも触れた。
フレッシュカダバー実習:岩永先生/嘉村先生/田中先生
臨床解剖実習、マイクロスコープを用いての歯根端切除・逆根管充填、サイナスリフト、インプラント埋入を効率よく行う。
明るくおしゃれな音楽が流れる実習室にはZEISS社マイクロスコープや最新のPIEZOが並ぶ。
そして日本での解剖時実習のような独特な臭いは一切ない。
フレッシュカダバーの最大のメリットは組織が固定されていないことだ。
例えば、サイナスリフトでは、教科書を読んでもホルマリン固定されたご遺体でもわからなかった
“シュナイダー膜の独特のふわっとした感覚” に触れることができた。
臨床解剖実習では,舌を動かしながらの舌神経の観察や下顎を動かしながらの関節円板の観察などが可能であった。
少人数性かつ講師も日本人の先生であり、フランクになんでも質問できるこの実習は2日間では足りない、と参加した多くの先生が思うほどであった。
今回は第1回目。今後について各先生に伺った。
講師インタビュー
嘉村先生
今回が初回であったが、受講された先生方とのディスカッションにより、予想以上に内容が濃く、実践臨床に則する内容になった。
レクチャーや模型を用いたハンズオンなどとは一線を画する、真に明日から使える実践臨床を2日間で学ぶことができる機会であり、来年以降、先生方のフィードバックを受けて、さらに我々も、コースもステップアップしていくであろう。
今回は歯根端切除や伝達麻酔という2つの手技に着目したが、多くの先生から非外科的歯内療法に関して、多くの質問を受けた。私自身も大きな衝撃を受けたが、フレッシュカダバーを用いることで、ラバーダム防湿やアクセス、根管形成、根管充填などの処置も実践に則した形でトレーニングすることができると感じた。
田中先生
米国でも、実際にカダバーを使用させていただいてのハンズオンが出来る機会というのは限られている。また、その使用するカダバーもホルマリン固定をされているものが多く実際の臨床での感覚とは異なる。
その点、今回SSFでフレッシュカダバーを使用させていただき、実習中に出血がないという点以外は全く臨床での感覚との違いが無いことに大変感動した。なのでフレッシュカダバーを使用して、ほぼ全ての歯周外科を限りなく本当の患者さんを治療している感覚で習得することが可能である。今回は、模型や豚の頭を利用したハンズオンでは習得しにくいFGGとサイナスリフトを題材に選んだが、受講生の方々のご要望があればフラップオペや米国で使用している膜や骨などの材料を使用したGBRなどの実習も今後開催出来るのではないかと考えている。
岩永先生
大学卒業後に学ぶ解剖(臨床解剖学の講義やフレッシュカダバーでの実習)がいかに臨床医にとって重要か、受講生のみなさんに伝わったのであれば非常に嬉しい。 今後もこういったコースや講演会、出版物などを通じて臨床医に必要な解剖の情報を発信し続けたい。
さらに、講師のわれわれも今後多くのことを学び、コースも常に進化していく。初回である今回は期待以上の成果であったが、すでに来年に向け、新たなアイデアが湧いてきている。
われわれ一人一人でできることは非常に限られているが、こうして様々な分野の専門医が集まることで大きな力となる。
とはいえ、まさかこうして昔のチームメイトと米国で一緒にコースを作り上げる日が来るとは思わなかった。
そう実は岩永先生、嘉村先生、田中先生はラガーマン。
歯学部時代はラグビー部のチームメイトだったそう。
そんな講師の先生の仲の良さもあってか受講した先生方も気軽に質問でき、1日目の質問は翌日スライドを用いて更なるレクチャーがあるなど、フォローアップも手厚い。
今回は、歯根端切除の詳細を教わりたい先生、 サイナスリフトを練習したい先生など目的も様々であり、GPの先生からエンド専門医の先生まで様々な先生が参加した。
それぞれの受講生が素晴らしく充実した学びを実感した初回。今後、よりパワーアップして行われるこのコースに期待を募らせる。
Doctorbook 編集部
鈴木 志帆美