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第29回日本老年歯科医学会学術大会”参加レポート”

2018年7月10日(火)

2018年6月22・23日、品川区立総合区民会館きゅりあんにて第29回日本老年歯科医学会学術大会が開催されました。


日本老年歯科医学会は、会員の老年歯科医学に関わる研究並びに会員の知識の普及に貢献するとともに、それにより高齢者の保健・医療の進歩・発展を図り、もってわが国の学術の発展と国民の福祉に寄与することを会員共通の目的として活動している団体です。


 


今回の第29回の学術大会大会長に昭和大学歯学部高齢者歯科学講座の佐藤 裕二教授を迎えて、「歯科」という狭い分野ではなく,これから必要となる「口腔医学」をメインテーマにして行われました。


第29回日本老年歯科医学会学術大会の1日目である6/22の様子を参加レポートとしてまとめました。


是非ご覧ください。


 


学術・在宅歯科診療合同シンポジウム


在宅(訪問)歯科診療を科学する


菅 武雄 先生(鶴見大学歯学部高齢者歯科学講座)


 


「我々が行わなければいけないのは、生活機能を対象としたリハビリテーション歯科医療」とお話しするのは鶴見大学の菅武雄先生 


まず在宅歯科医療の基本的考え方をお話し、往診と訪問診療そして歯科訪問診療の違いについてお話されました。


菅先生は歯科訪問診療は対象・場・環境・ニーズの全てが外来と違い安全性と確実性を外来よりももっと厳しくしなければならないと強くお話されました。


 


通院困難な状態とはセルフケア困難であることと等しい場合が多く、今後の多くの歯を残した高齢者の多歯介護がやってきて、本末転倒である残してきた歯が邪魔になる、、、といったことが現に起きてき始めているということを投げかけ在宅歯科医療の発表を締めくくりました。


 


 


SDF法による高齢者根面う蝕のマネージメント 


福島 正義 先生(福島県昭和村国民健康保険診療所/新潟大学歯学部)


 


「根面齲蝕は修復処置より、予防と慢性化が必要である」とお話するのは新潟大学の福島先生。 


 


80代の70%が罹患していると言われている根面う蝕について初期の診断の難しさと治療の難しさをお話されました。


歯周手術後、歯頚部摩耗性、放射線治療によう口腔乾燥、要介護治療によってリスクが増加する根面齲蝕に対してSDF(フッ化ジアンミン銀)法を用いるメリットについてまとめています。


医療経済効果を検証した時に費用対効果が一番高いものはSDF法であったとし、根面齲蝕の予防、早期検知、進行抑制をお話されました。


 


 


ビギナーのための“歯科訪問診療”事始め ―生活を支える医療となるために―


猪原 健 先生(猪原歯科・リハビリテーション科)


 


「在宅医療では歯科は主役ではない、黒子に徹する覚悟が必要だ」と語るのは猪原歯科・リハビリテーション科の猪原 健 先生。


 


外来診療との大きな違いは生活の場における診療であることと他職種による協同です。


地域包括ケアシステムで大切なことは本人の選択と本人と家族の心構えであるとお話されました。


 


猪原先生が苦言を呈していたのは、歯科医師は「患者さんから感謝されることを当たり前に思ってしまっていて、ダイレクトに成果が出ることに慣れすぎている。


誰かの指示で動くことや、不本意なものに慣れていない。」とお話しており、


チーム医療で大切なチームの一員として動く事と診療情報提供書と報告書がとても大切であるとお話されていました。


 


他にも歯科がゲートオープナー機能を担わなければいけないことや退院前カンファレンスへの参加を積極的に行うべきといったことをまとめておりました。


 


 


超高齢社会の栄養


超高齢社会の食支援 ―食と自己実現―


時岡 奈穂子 先生(特定非営利活動法人はみんぐ南河内)


 


「立場の異なる関係者がNBMとEBMを持ち寄り最善策を探し続けることが大切である」とお話するのははみんぐ南河内管理栄養士の時岡 奈穂子 先生


 


時岡先生が行っている訪問栄養指導から健康行動理論に基づいた栄養支援モデルのお話をされ、そこからマズローの5段階欲求を食べると結びつけた考え方などとてもロジカルに基づいたお話をされました。


 


自分が介護される側になった時に、今自分が行っているケアをしてもらえる地域のシステムを作りたいというとても温かみを感じるご講演でした。


 


特別講演


人生の最終章を輝かせる緩和ケア ~全人的ケア、死から生といのちを考える~


髙宮 有介先生(昭和大学医学部医学教育学講座)


 


「自分の医療の原点は患者さんの笑顔を見たいということ」と話すのは昭和大学の高宮先生。


 


ホスピスでの先生の涙なしでは聞けないご経験を当時の動画や写真などで振り返りながらお話されました。 


全人的痛みの4つ(身体的、精神的、社会的、スピリチュアル)とどう医療者として向き合っていくのか、そして癌末期の患者さんから教わったことをお話されました。


 


そして日本であまり浸透していない、医療者自身の心のケアの部分を話され、医療者自身のストレスマネジメントの大切さを語り、講演途中で会場全員で瞑想を1分半行いました。 


特に心に残った言葉は「私が無駄に過ごした今日は、昨日亡くなった人が痛切に生きたかった明日である」という一言で今を大切に生き頑張っていこうと前向きな気持になりました。


 


メインシンポジウム


「脳卒中患者の老年口腔医学」


現在脳血管疾患は要支援・要介護の原因第一位を占め、超高齢社会の現代ではその数は増加していくと考えられます。


日本有病者歯科医療学会、日本障害者歯科学会、日本老年歯科医学会の3学会合同シンポジウムとして行われた本メインシンポジウムでは、それぞれの学会から推薦された先生が登壇しました。


 


脳卒中と歯科との関係


岩渕 博史 先生(神奈川歯科大学大学院歯学研究科顎顔面病態診断学講座顎顔面外科学分野)


 


日本有病者歯科医療学会からは岩渕先生。


現在死因第4位である脳卒中。一説によると歯周病に罹患している場合は1.13倍なりやすいと言われてることを指摘。


脳卒中=抗血栓療法、ハイリスクという漠然としたイメージではなく、ラクナ梗塞・アテローム梗塞・心原性脳梗塞のそれぞれの病態により抗血小板療法と抗凝固療法など大きく違いがあり、岩渕先生はそれぞれのリスクや管理方法、脳卒中特有の病態とその管理を説明しました。


また、糖尿病や高血圧症などの生活習慣病患者への対応など、同じ疾患でも投薬状況により対応が異なること、その対策について細分化し説明しました。


 


障害者歯科医療からみた脳卒中患者への対応


平塚 正雄 先生 (医療法人博仁会 福岡リハビリテーション病院歯科)


 


日本障害者歯科学会からは平塚先生。


脳卒中は急性期と回復期に分けられ、「疾患」→「障害」→「生活」があり、それぞれの時期にアプローチ方法は異なる。


回復期はADL能力により口腔内環境は大きく異なる。病院歯科における脳卒中患者への取り組みとして他業種連携を行い患者さん一人ひとりに寄り添う対応を実践していていらっしゃいました。


 


地域でつなぐ脳卒中患者の口腔機能管理


古屋 純一 先生 (東京医科歯科大学大学院地域・福祉口腔機能管理分野)


 


最後は日本老年歯科医学会から古屋先生。


脳卒中の患者さんの場合、QOL向上のためには地域での連携、他業種との積極的な関わりが欠かせません。


ただ他職種の方々はどのような口腔内状況でどの時期に歯科への依頼をすればいいのかわかりづらく、また歯科医療側としても評価方法や状態を定量的に伝えるのがというのが現状です。


そんな中、古屋先生のご講演の中で印象的だったのは、OHATという口腔ケアアセスメントを応用することによりスムーズな他職種連携を行なっていること。


OHATは視覚的に評価可能のため誰もが行うことができ、歯科医療従事者以外が簡便に行うことが可能なため適切な時期での歯科介入や他業種との連携に大きく役立つことを示しました。


 


学術用語シンポジウム


「高齢者の定義は75歳は妥当か?」


地域共生社会に「高齢者」というレッテルは要らない


小坂 健 先生(東北大学大学院歯学研究科)


 


心身機能はスポーツ庁のまとめによると10年で5~10歳若返っているが、一方健康寿命は10年で1~2歳しか変わっていない。


健康の概念の見直しが必要であると話すのは東北大学の小坂先生。


 


社会全体として65歳の半分以上は仕事してない現状に対して、LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略が大切であるとともに、それに合わせて社会保障制度も時代に合わせて更新していくべきであるとお話されました。


 


そして高齢者というレッテルを貼ることで社会から排除することになってしまうことを危惧しておりました。


 


高齢者を年齢で定義するのは適切か―社会学の立場から


古谷野 亘 先生(聖学院大学)


 


古谷野先生は社会学の観点から「老いた人」であるかどうかは暦年齢では測れないそして昔から日本人は暦年齢に縛られすぎであるとお話せれました。


 


そんな中2つの問題について話され、


年金受給開始年齢の弾力化について支給額の増減率は適切か?


高齢者雇用確保措置について60歳以降の労働条件は適切か?


 


超高齢化社会の目指すべきところは能力と希望のある人に対してエイジフリーな社会である。


社会学的地位と役割の変化がエイジングであり、暦年齢は大まかな目安でしかない。とお話されました。


  


改善途上にある歯数の増加と高齢者の定義 


那須 郁夫 先生(北原学院歯科衛生専門学校, 日本大学客員教授)


 


「年齢」と「問題」の2つの目線から高齢者が定義されつつあると話すのは那須先生。


 


平均余命は延伸中であり、歯数は増加中、歯の健康と健康余命の延伸し、延伸した健康余命の使い方が問題であるとまとめてお話されていました。 


現在歯数と補綴歯数を足した機能歯数という考え方で、咀嚼の維持が健康寿命の延伸に繋がるということを研究の中で「さきイカ・たくあんが食べられる人は健康余命が伸びる」とお話されていました。


 


 


日本歯科医学学会共催シンポジウム


「超高齢社会に対応できる臨床能力の養成プログラムを考えるーICTを活用した共通の準備教育と多様な臨床実習の実施」


 


これからますます高齢化が進む中で、超高齢社会での歯科医療はまさに全身のうちの「口腔医学」という捉え方を、学生のうちから身につけていきたいところです。


岩手医科大学・昭和大学・北海道医療大学では関連歯科医師会とともに超高齢社会に対応できるような歯科医師を養成する目的で共通のICT教材を用いたアクティブラーニングを取り入れています。各大学の先生方が大学の特色や地域性を見据えそれぞれお話しました。


 


3大学共通のICT教材と昭和大学における急性期チーム医療実習 


片岡 竜太 先生(昭和大学歯学部スペシャルニーズ口腔医学講座歯学教育部門) 


 


昭和大学では総合医療大学である特色を生かし、他学部生と合同で行う急性期チーム医療実習でのアクティブラーニングとして活用を行っている。片岡先生は、地域が異なる3大学合同やE-ラーニングのメリットを挙げ、今後はもっと多様な地域・E-ラーニングを利用した卒後の生涯学習システムの応用をしていきたいとお話していました。


 


超高齢社会に対応できる臨床能力の養成プログラムを考える


佐藤 健一 先生(岩手医科大学歯学部口腔顎顔面再建学講座歯科麻酔学分野)


 


岩手医科大学では、学外連携教育プログラムとして地域医療体験実習があり、その前にICT教材講義を取り入れています。


ICT教材で知識を身につけ、北東北という高齢者率が高い地域での地域医療体験実習を行うことは学生らにとって大きな学びになることを説明しました。


 


北海道医療大学における高齢者施設・一般開業歯科医院実習への応用


越野 寿 先生(北海道医療大学歯学部)



北海道医療大学では、1、2年次に他職種連携・高齢者を学ぶ講義を取り入れ、3・5年生でICT教材を活用した学習を行い5・6年生で臨床実習を行います。北海道医療大学はICT教育を積極的に取り入れており、学生の理解度確認にも大きなメリットがあるとお話していました。


 


会場の様子


3会場ある講演会場はどの会場も盛り上がりを見せていました。


ポスター展示や企業展示ブースも盛り上がりを見せ、高齢者の介護グッズなど実際に手にとって見られ、多くの先生方で賑わいを見せておりました。

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