抗がん剤「オプジーボ」薬価引き下げ問題。実は口腔領域にも関わる背景が。
「オプジーボ」とは?
「オプジーボ」(一般名:ニボルマブ)は小野薬品工業とブリストル・マイヤーズスクイブが共同開発した抗がん剤です。
このオプジーボは「免疫チェックポイント阻害剤」と呼ばれ、従来の抗がん剤とは全く異なる作用機序を持っています。
通常、人間の身体はがん化した細胞を排除する免疫機能が備わっています。
白血球の中のリンパ球であるT細胞が、がん細胞を攻撃して排除してくれるのです。
しかし、実はがん細胞には、このT細胞の攻撃を逃れるための巧妙なシステムがあります。
T細胞上には「PD-1」という分子が存在し、T細胞に作用して免疫を抑制する機能を持っています。
がん細胞はT細胞の活動を抑制するために、細胞表面に「PD-L1」という分子を発現させ、T細胞上に存在するこのPD-1と結合して、T細胞を抑制してしまうのです。
このがん細胞が免疫機構をすり抜けるためのシステムを持っていることに着目したのが免疫チェックポイント阻害剤であるオプジーボです。
オプジーボは作用機序はT細胞上のPD-1と結合し、PD-1ががん細胞のPD-L1と結合することを阻害します。
そのため、T細胞が司る免疫システムが再活性化し、がん細胞を排除してくれるのです。
(図)オブジーボの作用機序イメージ
オプジーボ薬価引き下げ議論の背景
オプジーボは2014年7月に「根治切除不能な悪性黒色腫」の適応で日本で承認を受けました。
当初承認された、この「根治切除不能な悪性黒色腫」の推定患者数は470人。
そのため、いわゆるオーファンドラッグ(※対象患者数が5万人未満の疾病に対する医薬品。希少疾病用医薬品とも呼ばれる)として高額な薬価が設定されました。
しかし、2015 年12 月に「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」が適応追加、今年の8月には「根治切除不能または転移性の腎細胞がん」も適応追加されています。
こうした適応追加によって当初の予測よりも対象患者数が急増し、医療財政の圧迫が問題となったのです。
オプジーボは現在の薬価だと、患者一人あたり月に約290万円、1年で約3,500万円近くかかります。
そのため、再来年4月の薬価改定の時期を待たずに、来年度に緊急で薬価を引き下げることになりました。
今回のケースでは、薬の販売額が年間1,500億円を超える場合に最大50%まで薬価を引き下げることができるルールを適用して、近く厚労省はオブジーボの薬価引き下げを、中医協(中央社会保険医療協議会)に提案する予定です。
口腔がんとオプジーボ
オプジーボは免疫に作用する薬剤のため、幅広いがんに効果が見られると考えられ、現在も複数のがんで臨床試験が進んでいます。
2016年7月27日には「再発又は遠隔転移を有する頭頸部がん」に対して承認申請が行われたことが発表されました。
頭頸部がんは口腔や咽頭、鼻腔や副鼻腔など、頭頸部に生じるがんの総称です。
既に承認済みの1.悪性黒色腫、2.非小細胞肺がん、3.腎細胞がん、現在申請中の4.ホジキンリンパ腫に続く5つ目の承認申請となります。
再発又は遠隔転移を有する頭頸部がんに対しては、プラチナ製剤を中心とした化学療法が推奨されておりますが、化学療法施行後早期に再発が認められ、局所治療の適応とならない場合は、生存期間の延長が検証された治療選択肢がまだありません。
オプジーボが承認されれば、今まで治療選択肢の無かった頭頸部がんの患者さんにとって、大きな喜びになることは間違いないでしょう。
まとめ
高額な薬価が問題となっているオプジーボですが、それによって救われる患者さんが大勢いることは確かです
また、日本企業である小野薬品が開発したオプジーボは、今後の我が国におけるバイオ産業の試金石でもあります。
増え続ける医療費の中で、今回の薬価引き下げ処置は止むを得ない面もあるかもしれませんが、議論の背景を知っておくことで理解は深まります。
最後になりますが、オプジーボには当然のことながら有害事象も報告されています。
オプジーボの抗腫瘍効果の発現形式や有害事象の特性は従来の抗がん剤とは異なる部分もあり、十分な理解と適正使用が求められている薬剤です。
一部の過度な報道で聞かれたような「何でも治る魔法の新薬」では無いということを最後に記載させて頂ければ幸いです。