今回は歯周病治療のトラブル&リカバリーについて、日本歯科大学生命歯学部歯周病学講座准教授関野先生にご指導いただきました。
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今回は歯周病治療のトラブル&リカバリーについて、日本歯科大学生命歯学部歯周病学講座准教授関野先生にご紹介いただきました。
第一回目は象牙質知覚過敏の対処法について解説されています。
歯周治療後、炎症の消退に伴い歯肉退縮が生じ、更に根面を清掃するため全面的に歯根象牙質が露出します。
このような時に起きる症状が知覚過敏です。
歯根象牙質知覚過敏とは、歯周治療後に生じる温度、浸透性、機械的な刺激に対する歯の知覚が亢進した状態を指します。
治療後1週間をピークに徐々に痛みが消退していくことがほとんどです。
しばしば、慢性化し数ヶ月から数年間持続する場合もあります。
症状として、初期は一過性の鋭い痛みですが、長期化すると冷水や甘味によって持続性の鈍痛が生じることがあります。
重症化すると歯ブラシの接触でも激しい疼痛が起こり、ブラッシングを妨げる症状になりうるため注意が必要です。
発生頻度は、歯周基本治療後で約16%、歯周外科治療後で約26%と比較的高い割合で起こると考えられています。
このため、事前に患者に知覚過敏症が起こる可能性を伝えておくことがトラブルにならない秘訣と言えるでしょう。
知覚過敏症の発生機序として、有力視されているのが動水力学説です。
これは、機械的刺激や浸透圧変化によって象牙細管内の液体が移動し、神経を刺激して痛みが生じるというものです。
詳しいメカニズムについては動画内で解説されています。
導水力学説以外の理由で痛みが増強する可能性も指摘されています。
スケーリング・ルートプレーニングによるスメア層(象牙質の削片)の分解が要因となります。
さらに、細菌や産生物の侵入や精神医学的な要因、中枢神経感作の関与も考えられます。
酸性の食べ物や清涼飲料水の摂取量が多い方は知覚過敏が起こりやすいため、注意が必要です。
様々な要因により、象牙細管が開口することで知覚過敏の症状が起こると考えられています。
知覚過敏症の対処法として最も重要なのはプラークコントロールの徹底です。
口腔衛生状態が良好な患者では象牙細管がミネラル沈着によって閉鎖されています。
このことから、ブラッシングなどによる徹底的なプラークコントロールが有効です。
一時的に強い痛みがある場合は、フッ化物などの薬剤を使用することで症状を和らげることができます。
また、超音波スケーラーなどによる非侵襲的な治療を行うことで、セメント質の過剰な削除を避けられます。
動画内では、超音波スケーラーと手用スケーラーを使用した場合の実験データを紹介していますのでご確認ください。
最終的に改善が見られない場合は抜髄が必要となる可能性があります。
抜髄を回避するためにもプラークコントロールの徹底が重要と先生はおっしゃっています。
明日からの臨床でお役立てください。 -
喫煙は歯周病の最も重要なリスクファクターの一つです。
まずは、症例をご覧ください。
初診時38歳男性、歯周病が38歳にしては重度、喫煙者で1日1箱以上、かなりヘビースモーカーです。
禁煙はうまくいかず、禁煙補助薬を使ってもなかなかやめられません。
歯周基本治療が終わり、それなりに治療は進んでいたので外科など次のステップを検討していたところ治療を中断してしまいました。
4年後、やはり歯周病の治療がしたいということで再来院されました。
以前よりも状態が悪く相変わらず喫煙をしており、喫煙者特有のメラニン色素メラニン色素沈着な所見もみられます。
動画内では、初診時と再来院時のレントゲン写真を比較し状態の変化を解説されています。
喫煙は口腔衛生の悪化、免疫機能の抑制、血流の悪化、炎症性サイトカインの産生などの影響があり歯周組織に悪影響を及ぼします。
喫煙者は非喫煙者に比べて1.85倍歯周病の有病率が高く、治療反応も悪化します。
以前は喫煙関連歯周炎という独立した病名でしたが、2017年に喫煙は歯周炎のリスクファクターと位置づけられました。
喫煙者の治療反応について論文を用いて解説してくださいました。
喫煙者は非喫煙者に比べ基本治療の成績が悪く、ポケット減少量が0.33mm少ない
アタッチメントレベル減少量が0.2mm少ないことが示されています。
また、非外科的治療後のポケット4mm以上の残存率が70%と高く、非喫煙者の50%に比べて治癒率が低いです。
禁煙すると治療効果が向上し、ポケット減少量が0.3〜1.1mm、アタッチメントレベル減少量が0〜0.2mm良好になります。
また、元喫煙者と非喫煙者の歯の喪失リスクはほぼ同等ですが、喫煙者は非喫煙者に比べて2.6倍高くなります。
したがって、禁煙は歯周病治療の成功に不可欠です。
禁煙は容易ではありませんが、専門家によるカウンセリングと禁煙補助薬の使用が有効です。
内服薬チャンピックス(バレニクリン酒石酸塩)は68%の禁煙成功率がありましたが、現在は出荷停止中です。
代替としてニコチンガムやニコチンパッチなどを使用することが推奨されています。
ヨーロッパ歯周病連盟によるガイドラインでは歯周治療の禁煙介入を推奨しています。 -
糖尿病とは、インスリンの作用が不十分なために生ずる代謝障害で慢性的に血糖値が上昇した状態をいいます。
重症化すると、意識障害、昏睡にいたることもあり、様々な合併症を引き起こす可能性があります。
糖尿病には1型と2型があり、それぞれの特徴については動画内でご確認ください。
まず、歯周病が糖尿病に与える影響についての解説です。
歯周炎による炎症性サイトカインが全身に回り、膵臓のインスリン抵抗性を増加させ血糖値を上げるメカニズムが考えられています。
一方糖尿病が歯周病に与える影響としては、免疫機能の低下、炎症反応の亢進、コラーゲン代謝異常、微小循環障害があげられます。
終末糖化産物の蓄積とその受容体(RAGE)との相互作用が重要な役割を果たしているのです。
システマティックレビューによると、糖尿病患者は非糖尿病患者と比べて歯周炎の有病率が1.85倍高いことがわかっています。
さらに、1型糖尿病と2型糖尿病を合わせた研究では2.6倍
2型糖尿病のみでは1.7倍
妊娠糖尿病では1.95倍高いことが示されています。
人種別では、アジア人は1.67倍高く、若年層ほど影響が大きい傾向にあります。
糖尿病患者の歯周炎症状は、非糖尿病患者の症状と見分けがつきにくいです。
したがって、糖尿病は喫煙と並んで重大な歯周炎のリスクファクターに位置づけられました。
次に、糖尿病の歯周治療への影響について研究データを紹介していただきました。
2型糖尿病患者に対する通常の歯周治療は反応が良好です。
1型糖尿病患者の血糖コントロールが不十分な場合は反応が悪くなる可能性があります。
しかし、基本的には歯周組織の改善は得られるとされています。
全顎的な治療や抗菌剤を用いた治療、外科処置後の経過にも、糖尿病の有無による大きな差はないという報告もありました。
血糖コントロールが良好な場合は、歯周治療後の7mm以上のポケット減少に有意な改善が見られます。
しかし、不良な場合はその効果が低下する可能性があります。
ヨーロッパ歯周病連盟によるガイドラインでは、歯周治療中の患者に対する血糖コントロールへの介入を強く推奨しています。
詳しい介入方法については動画内でご確認ください。
日本歯周病学会のガイドラインでは、血糖コントロール良好な糖尿病患者に対する歯周外科治療を弱く推奨しています。
これは、主に心臓外科や整形外科領域の手術における合併症リスクを参考にしたものです。
HbA1cが7%を超える場合は、より慎重に対応する必要があるとされています。 -
今回は歯周治療における抗菌薬の全身投与と局所投与の注意事項について解説していただきました。
まず、抗菌療法についてです。
歯周炎の治療に使用する場合には、メカニカルな治療法と併用しましょう。
非外科的に歯周治療で抗菌薬を併用すると効果は高まる可能性はあるが、臨床的に意義があるかは不明です。
抗菌薬の効果は長時間持続しません。
抗菌薬が有効な患者はごく少数でほとんどの患者では必要ありません。
抗菌薬が有効な患者かどうか、治療前に知ることは不可能です。
まずはメカニカルな治療を徹底して行いましょう。
次に、歯周病の病因論について確認をしておきましょう。
かつては非特異的プラーク仮説が主流でしたが、次に特異的プラーク仮説が台頭しました。
レッドコンプレックスなどの特定の細菌種よりも、バイオフィルム全体の機能遺伝子がより重要であると考えられています。
近年では生態学的プラーク仮説が主流となり、バイオフィルム内の細菌層の乱れ(ディスバイオシス)が重要視されています。
メタトランスクリプトームの解析から、細菌叢とその機能を表す遺伝子が細菌叢の組成よりも歯周病の病原性をより正確に示します。
ある研究では、抗菌薬を併用した場合、アタッチメントレベルやポケットの深さの改善が認められました。
しかし、この効果は付加的なものであり、相乗効果ではありません。
また、研究結果には地域差があり、患者のコンプライアンスやモチベーションが影響する可能性が示唆されました。
ヨーロッパ歯周病連盟のガイドラインでは、歯周炎患者に対する抗菌薬の全身投与は日常的には推奨されていません。
一方、特定の患者群(若年性歯周炎、全身疾患合併など)では、機械的治療との併用が考慮される可能性があります。
しかし、その根拠はオープンであり、コンセンサスは得られていません。
50歳女性の重度歯周炎症例において、機械的治療に加えて抗菌薬の全身投与を行った結果、良好な治療経過が得られました。
しかし、この改善が抗菌薬療法の影響によるものかは不明確であり、機械的治療の影響が大きかったと考えられます。
抗菌薬療法は例外的な症例に限定されるべきであり、一般的には推奨されません。 -
フルマウス・ディスインフェクションの解説です。
従来の段階的治療法に代わる新しい治療法で、24時間以内に全顎のポケットを一度に除去し、抗菌処置を行うものです。
従来法と比較して、ポケット減少と細菌層減少に有効であることが示されています。
しかし、発熱などの副作用の懸念や、その効果に疑問を呈す研究結果もあることが指摘されています。
次に、超音波スケーラーを用いたフルマウス・ディスインフェクションの有効性についてです。
従来の手用スケーラーによる段階的治療法と比べて、ポケット改善効果に差はありませんでした。
しかし治療時間が大幅に短縮され、患者の不快症状も少なかったことが報告されています。
これは専門病院による理想的な環境下での研究結果ですが、一般的な臨床現場でも有効である可能性が示唆されています。
そこで、別の研究結果一般クリニック59カ所を対象に行ったGPICの有効性をお示しします。
GPICとCNSTは、非外科的歯周治療のプラークコントロールとして有効であったがGPICはより時間的に効率が高かった。
患者教育には禁煙の影響も含めるべきであると述べられています。
次に全身への影響について解説されています。
介入研究結果より短期的には全身の炎症反応や血管内皮機能の低下を引き起こしますが、半年後には改善することが報告されました。
ただし、心疾患患者には注意が必要であり、段階的治療が適切である可能性が指摘されています。
ヨーロッパ歯周病連盟ガイドラインでは、フルマウス・ディスインフェクションは推奨されるものの確信は持てないとされています。
一方、重度の症例でも適切な管理の下ではフルマウス・ディスインフェクションが有効である可能性が示されています。
但し、良い結果が必ずしも得られるものではありませんので注意していただきたいです。
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