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【連載】顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2016の解説:Part2

2016年10月20日(木)

【連載】顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2016の解説


Part1はこちら:https://academy.doctorbook.jp/columns/MRONJ1 
Part3はこちら:https://academy.doctorbook.jp/columns/MRONJ3


ビスフォスフォネート(BP)製剤休薬の効果について


骨吸収抑制薬の治療を受けている患者に対して歯科治療を行う前に、骨吸収抑制薬投与を継続するか、あるいは休薬するかに関しては、様々な議論があります。


まず、骨吸収抑制薬の休薬が、顎骨壊死発生を予防するかどうかは、まだ確立した見解は出ておらず、不明です。


 


ビスフォスフォネート(BP)は骨における半減期が年単位であり、長期間残留する性質があります。そのため、術前に短期間BPを休薬しても、顎骨壊死に効果があるかは疑問が残ります。


実際に、日本骨粗鬆症学会が行った調査結果では、骨粗鬆症患者においてBPを予防的に休薬しても顎骨壊死発生の減少は認められていないそうです。


 


一方で、当然のことながら、BPの休薬は骨折の発生など症状の悪化が認められるということも分かっています。


 


こうした議論を踏まえると、抜歯などの侵襲的歯科治療前にビスフォスフォネート(BP)製剤の休薬を積極的に支持する根拠には欠けると、ポジションペーパー2016では結論付けています。


 


ビスフォスフォネート(BP)製剤による顎骨壊死の予防


では、顎骨壊死を予防するためにはどうしたらよいのでしょうか?


 


実は、ビスフォスフォネート関連顎骨壊死(Bisphosphonate-Related Osteonecrosis of the Jaw;BRONJ)は感染が引き金となっていることが分かっています。そのため、顎骨壊死を予防するためには、まずは感染予防を徹底して行うことが重要です。


 


注目すべき報告としては、ビスフォスフォネート関連の顎骨壊死が以前発生したことがあるがん患者においても、感染を予防すれば新たな顎骨壊死は発生しなかったというものものがあります。がん患者は顎骨壊死のリスクが極めて高いということを考えると、高リスク患者においても感染予防対策を徹底することで、発生を予防することが出来ると考えられます。


 


ビスフォスフォネート(BP)製剤を休薬しないことが検討されるケース


 


上記の通り、基本的には、歯科治療前のビスフォスフォネート(BP)休薬は行わず、感染対策を徹底することで顎骨壊死を予防すべきであるというのが、2016年におけるポジションペーパーの見解となっています。


 


しかし、ポジションペーパー2016にはBP休薬を検討すべきケースへの言及もあります。
それは、BP治療を4年以上受けている患者へ侵襲的歯科治療を行うケースです。


 


米国FDAのアドバイザリーボード、米国口腔顎顔面外科学会(AAOMS)、およびその他いくつかのグループは、骨粗鬆症患者においてBP治療が4年以上にわたる場合、ビスフォスフォネート由来の顎骨壊死の発生率が増加するとのデータを示しているそうです。


 


ポジションペーパー2016では「この報告はいずれも後ろ向き研究の結果であり、症例数も少ないため、慎重に解釈されなければならない」と前置きをした上で、「AAOMSは骨吸収抑制薬投与を4年以上受けている場合、あるいはONJのリスク因子を有する骨粗鬆症患者に侵襲的歯科治療を行う場合には、骨折リスクを含めた全身状態が許容すれば2ヶ月前後の骨吸収抑制薬の休薬について主治医と協議、検討することを提唱している」と記載しています。


 


この米国口腔顎顔面外科学会(AAOMS)の提唱については、日本口腔外科学会、韓国骨代謝学会/口腔顎顔面外科学会が賛同しており、国際口腔顎顔面外科学会(IAOMS)も支持をしているとのことです。


 


 ビスフォスフォネート(BP)製剤投与患者への歯科治療:対応策の一例


繰り返しになりますが、侵襲的歯科治療前のビスフォスフォネート(BP)製剤の休薬に関しては、統一した見解は見られていません。


そのような状況の中、ポジションペーパー2016では、多くの総説を踏まえた上で、顎骨壊死予防の対応例として下記を上げています。


 


まず、治療前の対応としては、十分な患者教育を行い、歯磨きや抗菌性洗口剤による咳嗽などセルフケアの徹底をさせることです。そして、歯科医師は感染の原因となりうるもの(歯垢、歯石、う蝕歯、残根、歯周病、根尖病巣、不適合な義歯、クラウンならびにインレー)は可能な限り除去します。


 


処置に関しては可能な限り侵襲的歯科治療は避け、避けられない場合は、抗生剤の術前投与を行い、侵襲は出来るだけ最小に抑えることが必要となります。


処置後残存する骨の鋭端は平滑にし、術創は骨膜を含む口腔粘膜で閉鎖します。


 


なお、上述の通り、基本的にはビスフォスフォネート(BP)製剤は休薬を行いません。ただし、4年以上投与を受けている患者の場合は、休薬について主治医と協議・検討することが提唱されています。


 


 


デノスマブ投与患者の歯科治療


デノスマブはBPと同様に破骨細胞による骨吸収を抑制する薬剤です。


デノスマブ関連顎骨壊死(DRONJ)はビスフォスフォネート関連顎骨壊死(BRONJ)とほぼ同程度の頻度で発生するとされています。


 


デノスマブ投与患者への歯科治療は、ビスフォスフォネートの場合と同様の対処がポジションペーパーでは提唱されています。


すなわち、治療前の徹底した感染予防処置を行ったうえで、休薬は行わずに、できるだけ保存的に、やむを得ない場合のみ侵襲的歯科治療を進めます。


 


また、骨半減期が非常に長いビスフォスフォネート(BP)製剤と異なり、デノスマブの血中半減期は約1ヶ月であること、骨粗鬆症患者に対するデノスマブの投与は6ヶ月に1回であることを考慮すると、デノスマブの投与タイミングを考慮しながら、歯科治療の時期や内容を検討することは可能です。


 


侵襲的歯科治療後に休薬すべき場合


ビスフォスフォネート(BP)製剤やデノスマブといった骨吸収抑制薬を投与されている患者に襲的歯科治療を行った後は、主治医と歯科医師が総合的に判断した上で、必要がある場合には休薬や代替薬への変更を検討します。


 


歯科医師は侵襲の程度や部位、治癒状態などを確認し、主治医はガイドラインに基づく骨折リスクの判定や、主疾患のコントロール状態を診断した上で、判断を行うことが必要です。


 


もしも休薬を行った場合、再開のタイミングについては術後2ヶ月前後が望ましいとされています。これは十分な骨性治癒がみられる時期だからです。


 


しかし、主疾患の病状によって再開を早める必要がある場合、術部の上皮化がほぼ終了する2週間を待ち、術部の感染が無いことを確認した上で投与を再開します。


この場合は、歯科医師は術部の治癒を確認できた段階で、速やかに主治医に連絡します。


 


いずれにしても、医師と歯科医師が相互に連携し、患者にとってベストと考えられる治療を行うことが大切であると考えられます


 


まとめ


1.抜歯などの侵襲的歯科治療前にビスフォスフォネート(BP)製剤の休薬を積極的に支持する根拠には欠ける。


2.顎骨壊死を予防するためには、徹底した感染予防対策が必要である。


3.骨吸収抑制薬投与患者への歯科治療は、基本的には休薬を行わず、侵襲は最小限に抑える。


4.侵襲的治療後の休薬については、医師と歯科医師が連携し、最適と考えられる判断を下す。


 


Part3では、顎骨壊死を起こしてしまった場合の対処についてまとめます。


 


【連載】顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2016の解説


Part1:https://academy.doctorbook.jp/columns/MRONJ1 
Part3:https://academy.doctorbook.jp/columns/MRONJ3


 【参考文献】


「骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2016」顎骨壊死検討委員会



  • 米田俊之 (日本骨代謝学会、インディアナ大学医学部血液腫瘍部門)

  • 萩野 浩 (日本骨代謝学会、鳥取大学医学部保健学科)

  • 杉本利嗣 (日本骨代謝学会、島根大学医学部内科学講座内科学第一)

  • 太田博明 (日本骨粗鬆症学会、国際医療福祉大学臨床医学研究センター)

  • 高橋俊二 (日本骨代謝学会、癌研有明病院化学療法部 総合腫瘍科)

  • 宗圓 聰 (日本骨粗鬆症学会、近畿大学医学部奈良病院整形外科・リウマチ科)

  • 田口 明 (日本歯科放射線学会、松本歯科大学大学院歯学独立研究科硬組織疾患制御再建学講座臨床病態評価学)

  • 永田俊彦 (日本歯周病学会、徳島大学大学院医師薬学研究部歯周歯内治療学分野)

  • 浦出雅裕 (日本口腔外科学会、兵庫医科大学歯科口腔外科学講座)

  • 柴原孝彦 (日本口腔外科学会、東京歯科大学口腔顔面外科学講座)

  • 豊澤 悟 (日本臨床口腔病理学会、大阪大学大学院歯学研究科口腔病理学教室)


 


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