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【連載】顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2016の解説:Part3

2016年11月4日(金)

【連載】顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2016の解説


Part1はこちら⇒【連載】顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2016の解説:Part1
Part2はこちら⇒【連載】顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2016の解説:Part2


薬剤関連顎骨壊死の治療


薬剤関連顎骨壊死(ARONJ:Anti-resorptive agents-related ONJ)が発生した場合の治療方法については、まだ確固としたエビデンスによって有効性が証明されているものはありません。
しかし、これまでの報告やエキスパートの意見を集約した結果が、ポジションペーパー2016にはまとめられています。


 


まず、薬剤関連顎骨壊死(ARONJ)の治療はステージによって異なります。


 


しかし、基本的には
①骨壊死領域の進展を抑えること 
②疼痛、排膿、知覚異常などの症状の緩和と感染制御により患者のQOLを維持すること 
③歯科医療従事者による患者教育および経過観察を定期的に行い、口腔管理を徹底すること
 
の3つが重要です。


 


4,5年前まで、薬剤関連顎骨壊死(ARONJ)の治療方針は保存的両方が第一選択であり、ONJの拡大、感染の進展を防ぐことが出来ない場合に限って外科的療法を行うとされていました。


しかし、近年では、ステージ2以上の薬剤関連顎骨壊死(ARONJ)に対しては、外科的療法を進めた方が、保存的療法よりも治癒率が高いとの結果が集積してきており、外科的療法を推奨する傾向にあります。


 


また、発生した薬剤関連顎骨壊死(ARONJ)の治療を進めている間の、骨吸収抑制薬の投与については、継続すべきか中止すべきかについて一定の見解はまだありません。


しかし、がん患者では原則として休薬せず、骨粗鬆症患者の場合は、骨折リスクが高い場合を除いて、治療が完了するまで投与の継続の可否を検討する必要があるとポジションペーパー2016には記載があります。


 


日本骨粗鬆症学会の調査によると、歯科医師は薬剤関連顎骨壊死(ARONJ)の発生と関連しない骨粗鬆症治療薬に対しても休薬を求めることがしばしばあり、歯科医師から休薬依頼のあった薬剤のうち30%近くはビスフォスフォネート(BP)とデノスマブ以外の薬剤であるという報告もあるそうです。


一方で、医師の62%は歯科医師に口腔検査を依頼した経験がなく、72%は歯科医師と連携した経験がないとの結果が報告されています。


 


こうした報告から、薬剤関連顎骨壊死(ARONJ)をめぐって、医師と歯科医師の間にコミュニケーションが不足しており、連携体制が構築されていないことが伺えます。


 


各ステージの臨床症状と治療法まとめ 






























ステージ臨床所見および画像所見治療
ステージ0

臨床症状:骨露出/骨壊死なし、深い歯周ポケット、歯牙動揺、口腔粘膜潰瘍、腫脹、膿瘍形成、開口障害、下唇の感覚鈍麻または麻痺(vincent 症状)、歯原性では説明できない痛み


画像所見:歯槽骨硬化、歯槽硬線の肥厚と硬化、抜歯窩の残存


※ステージ0のうち半分はONJに進展しないとの報告があり、過剰診断とならないよう留意する。



抗菌性洗口剤の使用、瘻孔や歯周ポケットに対する洗浄、局所的抗菌薬の塗布・注入


 


 


ステージ1

臨床症状:無症状で感染を伴わない骨露出や骨壊死またはプローブで骨を触知できる瘻孔を認める。


画像所見:歯槽骨硬化、歯槽硬線の肥厚と硬化、抜歯窩の残存


抗菌性洗口剤の使用、瘻孔や歯周ポケットに対する洗浄、局所的抗菌薬の塗布・注入
ステージ2

臨床症状:感染を伴う骨露出、骨壊死やプローブで骨を触知できる瘻孔を認める。骨露出部に疼痛、発赤を伴い、排膿がある場合とない場合とがある。


画像所見:歯槽骨から顎骨に及ぶびまん性骨硬化/骨溶解の混合像、下顎管の肥厚、骨膜反応、上顎洞炎、腐骨形成



抗菌性洗口剤と抗菌薬の併用、難治例:複数の抗菌薬併用療法、長期抗菌薬療法、連続静注抗菌薬療法、腐骨除去、壊死骨掻爬、顎骨切除


 


 


ステージ3

臨床症状:疼痛、感染または1つ以上の下記の症状を伴う骨露出、骨壊死、またはプローブで触知できる瘻孔。
 歯槽骨を越えた骨露出、骨壊死(例えば、下顎では下顎下縁や下顎枝にいたる。上顎では上顎洞、頬骨にいたる)。その結果、病的骨折や口腔外瘻孔、鼻・上顎洞口腔瘻孔形成や下顎下縁や上顎洞までの進展生骨溶解。


画像所見:周囲骨(頬骨、口蓋骨)への骨硬化/骨溶解進展、下顎骨の病的骨折、上顎洞底への骨溶解進展



腐骨除去、壊死骨掻爬、感染源となる骨露出/壊死骨内の歯の抜歯、栄養補助剤や点滴による栄養維持、壊死骨が広範囲に及ぶ場合、顎骨の辺縁切除や区域切除


※病期に関係なく、分離した腐骨片は非病変部の骨を露出させること無く除去する。露出壊死骨内の症状のある歯は、抜歯しても壊死過程が増悪することは無いと思われるので抜歯を検討する。



(顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2016を元に作成)


 


 今後の展望


ビスフォスフォネート関連の顎骨壊死が始めて報告されてから10年以上が経過しているにも関わらず、いまだに薬剤関連顎骨壊死(ARONJ)の疫学的、ならびに病態学的解析・理解は不十分であり、多くの不明な点が残されています。


発症のメカニズムやリスク因子の解明について、いち早い解明が望まれているのが現状です。


 


また、近年ビスフォスフォネート(BP)治療に関連して、極めてまれにではありますが、外耳道骨壊死の発生が報告されており、医薬品医療機器総合機構は、重大な副作用として注意を喚起しています。こちらも今後の展開が注目されるところです。


 


本連載で紹介した顎骨壊死への予防や治療方法については、まだ確固とした医学的エビデンスが構築されているものではなく、これまでの報告の集積をもとにした2016年段階での知見であることを改めて強調させて頂きます。


今後、薬剤関連顎骨壊死(ARONJ)の発生機序が解明されていくことで、より明確な指針が確立されることが待たれます。


 


しかし、患者さんが適切な治療を受け、不利益を被ることを防止するためには、医科と歯科が連携し、互いの専門性を活かしながら最良と考えられる選択を行うことが大切です。


 


本記事がその一助となれば幸いです。 


 


まとめ


1.薬剤関連顎骨壊死(ARONJ)の治療はステージによって異なり、ステージ2以上では外科的療法を推奨する傾向にある。


2.全ステージを通して①骨壊死の進展の防止②対症療法と感染制御による患者QOLの向上③歯科医療従事者による口腔内管理の徹底が重要である。


3.薬剤関連顎骨壊死(ARONJ)の疫学的、ならびに病態学的解析・理解は不十分であり、発症のメカニズムやリスク因子の解明が望まれている。


 


【連載】顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2016の解説


Part1:https://academy.doctorbook.jp/columns/MRONJ1 
Part2:https://academy.doctorbook.jp/columns/MRONJ2


 


 【参考文献】


「骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2016」顎骨壊死検討委員会



  • 米田俊之 (日本骨代謝学会、インディアナ大学医学部血液腫瘍部門)

  • 萩野 浩 (日本骨代謝学会、鳥取大学医学部保健学科)

  • 杉本利嗣 (日本骨代謝学会、島根大学医学部内科学講座内科学第一)

  • 太田博明 (日本骨粗鬆症学会、国際医療福祉大学臨床医学研究センター)

  • 高橋俊二 (日本骨代謝学会、癌研有明病院化学療法部 総合腫瘍科)

  • 宗圓 聰 (日本骨粗鬆症学会、近畿大学医学部奈良病院整形外科・リウマチ科)

  • 田口 明 (日本歯科放射線学会、松本歯科大学大学院歯学独立研究科硬組織疾患制御再建学講座臨床病態評価学)

  • 永田俊彦 (日本歯周病学会、徳島大学大学院医師薬学研究部歯周歯内治療学分野)

  • 浦出雅裕 (日本口腔外科学会、兵庫医科大学歯科口腔外科学講座)

  • 柴原孝彦 (日本口腔外科学会、東京歯科大学口腔顔面外科学講座)

  • 豊澤 悟 (日本臨床口腔病理学会、大阪大学大学院歯学研究科口腔病理学教室)


 


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