【人気動画】総義歯専門Dr.が語るベーシックテクニック/松丸悠一先生①
目次
はじめに
今回はベーシックテクニックということで、総義歯作製の流れのなかでも「診査・概形印象採得」「精密印象採得」「咬合採得」にフォーカスを絞ってご講演いただきました。
診査・概形印象採得
①問診
患者に受け入れてもらえる義歯を制作するためには、まず義歯に関する患者のバックグラウンドを探る必要があります。
そのために重要なことが問診です。
問診というと、通常は主訴を聞いて、現病歴、既往歴…となりますが、松丸先生は総義歯作製における問診ではそれ以外にもポイントがあると述べられました。
✓患者独自の快適性、機能性、審美性に対する期待
「噛むと痛む」など患者が困っていることを抽出することも大切ですが、それと同じくらい重要なのが、患者が義歯に「期待」していることを聞き出しておくことです。
✓総義歯治療の経験
総義歯を新製する患者の多くは旧義歯を持っています。その旧義歯についての経緯、経過などについて問診をします。
✓今まで受けた補綴治療に対する患者自身の評価
使用してきた旧義歯のどこに不満があるのか、逆に満足している部分はどこなのかを聞き出しておきます。
②-1 視診(上顎)
まずは上顎の視診におけるポイントです。
解剖学的ランドマークの確認を行います。
*切歯乳頭
上顎中切歯の人工歯排列における位置の目安となります。
*上唇小帯
前後上下的に動きます。そのため小帯を左右に広く避けるような義歯辺縁にしてしまうと辺縁封鎖不良で脱離しやすい義歯となってしまうため注意が必要です。
*頬小帯
近遠心的に動きます。垂直方向には動かないため義歯の厚みを残さないと辺縁封鎖が悪くなってしまうため注意が必要です。
*口蓋小窩
義歯後縁設定の参考として利用できるランドマークです。
*上顎結節
必ずしっかり義歯で覆うことが必要です。
そのほかに臨床的なチェックポイントを2つご紹介されました。
✓可動粘膜と非可動粘膜の境界
上顎は下顎と比べて可動粘膜と非可動粘膜の境界が明瞭です。上顎は義歯の面積も広くとれるので、非可動粘膜に床縁が設定できれば基本的に維持の弱い義歯になってしまうことはないとのことでした。
口角鈎などでテンションをかけると可動粘膜と非可動粘膜の境界が可視化されます。
✓バッカルスペースの大きさと小帯の有無
頬小帯より後方では頬筋が真横に走行しているだけなので、バッカルスペースは適切に埋めておかないと良好な辺縁封鎖は得られません。
また、バッカルスペースには小帯が存在することがあります。
小帯がある場合、その存在に気付けないと思ったような辺縁封鎖が得られず臨床を非常に難しくしてしまうことがあるとのことでした。
②-2 視診(下顎)
次は下顎の視診におけるポイントです。
下顎もランドマークの確認からしていきましょう。
*レトロモラーパッド
臨床において印象のとりこぼしが多い部分とのことでした。
*歯槽頂
吸収の著しい顎堤では歯槽頂の位置を視診でよく確認しておきます。模型だけだと意外と歯槽頂を見誤ってしまうことがあるため注意が必要です。
*頬棚
床下粘膜で支持力を期待できる部位です。視診で見える範囲は覆います。
*舌小帯
模型だけだと舌小帯かオトガイ棘なのかを見誤りやすいです。
*頬小帯
頬小帯は分かりにくいことがありますが、舌小帯と水平的におおよそ同じ位置にあることが多いとのことでした。
*下唇小帯
舌小帯とならんで下顎の正中の参考になる解剖学的ランドマークです。
*顎舌骨筋線
レトロモラーパッドの洋梨状の下縁のおおよそ真ん中から起こります。
*オトガイ棘
オトガイ舌筋と舌小帯が付着している部位です。模型だと舌小帯と見分けがつかなくなります。
下顎についてもより臨床的なチェックポイントを2つ挙げられました。
✓レトロモラーパッドの位置と形態
臨床でレトロモラーパッドの印象が取れていないことがよく見受けられるとのことです。事前に視診で位置と形態を確認することが非常に重要とのことでした。
✓唇頬側のデンチャースペース
下顎義歯の唇側の床縁の設定で迷うことがありませんか?長すぎると義歯が浮きやすくなりますし、短すぎると噛めない義歯になってしまいます。
この部分の深さはオトガイ筋に影響を受けています。口唇をとがらせるなどしてこのオトガイ筋を緊張させた状態で下口唇を指で掴んでリラックスさせます。その状態で覗き込んで見える部分に床縁を設定するとちょうどよいとのことでした。
③-1 触診(上顎)
*フラビーガム
上顎前歯部に好発します。単にフラビーガムといってもその程度はさまざまです。触診で押してみてフラビーガムが倒れないような症例であれば臨床上あまり気にする必要はないとのことでした。問題となるのは押すと倒れてしまうようなフラビーガムです。その場合はどの方向に倒れるかを確認する必要があります。
*歯槽堤唇頬側
この部位は表層の骨が粗造なことが多いため、触診してみて患者が痛みを訴える部位は事前に調整するとよいとのことでした。
*口蓋部の柔軟性
口蓋正中部は基本的に硬いことが多いです。どの部分までどの程度硬いのかを確認しておきます。
*口蓋孔周辺
口蓋孔周囲の骨は鋭利になりやすい部分です。触診で患者が痛みを訴える部分はリリーフしておきます。
*上顎結節外側
被圧変位量が少ない部分です。硬さを確認しておきます。見えないアンダーカットが存在することもあります。また、筋突起の干渉の程度も触診で把握しておくことが必要です。
③-2 触診(下顎)
*歯槽頂部
下顎のなかでもっとも粗造なことが多い部分です。極端に粗造なケースでは軟性裏層材の使用も検討が必要とのことでした。
*顎舌骨筋線
歯槽頂とならんで骨の表面性状に患者ごとの差が出る部分です。
*舌下部骨縁
顎堤の吸収が進んでいるケースでは、視診だけだと下顎骨縁と口腔底との境界が不明瞭で分かりにくいです。触診で骨縁を確認し、骨縁までは床縁を延ばす必要があるとのことでした。
*下唇小帯
下顎の正中を確認するための重要なランドマークとなります。
*口裂周囲の緊張
口裂周囲の緊張度、反発力は患者ごとに差があります。程度を触診で把握します。