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医院PRの落とし穴!~医師×弁護士が医療機関のコンプライアンスを解説~

2018年11月27日(火)

1.有料予約サイトは危ない!


  最近、保険診療を行っている歯科医院が、民間事業者から、患者の紹介に係る有償契約を結び、対価を支払って当該民間業者から患者の紹介を受けている実態が指摘されています。 


 


これは、保険診療におけるバイブルである「保険医療機関及び保険医療養担当規則」(以下、単に「療養担当規則」といいます)違反の可能性があります。


 


保険医療機関が紹介料などの対価を支払って、患者を自己の医院等に誘引することは、以前、在宅医療における患者紹介で問題とされました。


具体的には、「高齢者用施設を新設するにあたり、特定の医師に入所者を優先的に紹介することの見返りとして、診療報酬の20%のキックバックを要求する」といったものです。


 


このような契約は、患者が保険医療機関を選択する際に、当該事業者による一定の制限がかかるおそれがあり(※1)、また、対価の回収のための不必要な診療や過剰な診療につながる可能性があります。


 


そのため、これを契機として、平成26年4月に、療養担当規則第2条の4の2第2項(経済上の利益の提供による誘因の禁止)が新設され、施行されました。


ここには、「保険医療機関は、事業者…に対して、患者を紹介する対価として金品を提供することその他の健康保険事業の健全な運営を損なうおそれのある経済上の利益を提供することにより、患者が自己の保険医療機関において診療を受けるように誘引してはならない。」とあります。


 


対価を支払って患者の紹介を受け、不必要な診療や過剰診療などが行われた場合、療養担当規則違反として、指導や監査の対象となりえます。


 


そして、行政が故意又は重大な過失により、診療報酬の不正請求を行ったと判断した場合、注意や戒告、最悪の場合は保険医療機関・保険医の指定・登録の取消処分が行われます。


さらには、経済上の措置として、5年分の診療報酬に40%の加算金を加えて返還請求される可能性があります。


 


実際、療養担当規則第2条の4の2第2項(経済上の利益の提供による誘因の禁止)の新設当時、保険診療を管轄する厚生労働省保険局医療課は、不正請求には厳正に対処すると明言しています。


 


このように、紹介料などの名目で対価の支払いを求める歯科予約サイトの使用は、療養担当規則違反と認定されるおそれがあります。


 


紹介料などの対価の名目を、例えば「システム利用料」等に変えていても、実態が同様であれば、療養担当規則違反にあたるでしょう。


むしろ、このような名目だけを変更して対価を要求する行為は法令の潜脱行為として悪質であるとすらいえます。


 


 ※1日本の保険医療の特徴の一つに、フリーアクセス制(健康保険法第63条3項:療養の給付を受けようとする者は、保険医療機関のうち、自己の選定するものから受けるものとされている)があります。厚生労働省は、対価を支払って患者の紹介を受けることは、このフリーアクセスを害すると考えています。


 


 


2.保険医療機関の取消し!?


  すでに多くの歯科医の先生方がご存じのとおり、療養担当規則は、保険医療機関や保険医が保険診療を行う上で守らなければならない基本的なルールです。


 


行政は、保険医療機関に対し、診療報酬の請求に関する指導を行っています。


 


監査に至った場合、監査要綱の定める基準に従って処分が下されますが、故意や重大な過失による療養担当規則違反に対しては、保険医療機関・保険医の「指定・登録の取消し」が行われます。


 


療養担当規則違反の怖いところは、「注意」「戒告」と「指定・登録の取消し」との間の中間的な処分が存在しないことにあり、注意・戒告以上の処分は指定・登録の取消しという非常に重い処分になってしまいます。(※2)


 


そのため、保険医療機関・保険医の指定・登録の取消処分は、訴訟で争われることもあります 。(※3)


指定・登録の取消が行われた場合、最低でも5年間は再指定・再登録は不可能です。


 


真摯に保険診療を遂行している歯科医の先生方にとって療養担当規則違反は大きなリスクになります。リスクマネジメントとして、保険診療において、紹介料や報酬などの対価(名目上、システム使用料とあっても実質的に対価であれば同様です)を要求する有料の患者予約サイトの使用は慎むべきでしょう。


 


 


※2.厚生労働省の発表資料によれば、平成28年度に指定取消(指定取消相当を含む)及び登録取消(登録取消相当を含む)の処分が課された保険医療機関・保険医の数は、それぞれ27件、21件でした。


※3.歯科医院及び歯科医の保険医療機関の指定・保険医の登録の取消事案の中には、比較的低額かつ指導の結果も「概ね妥当」とされていたにもかかわらず、これらの取消処分が課された事案(青森地裁平成19年2月23日)や監査拒否により取消処分が課された事案(大阪地裁平成20年1月31日、東京地裁平成22年11月19日)などの例が存在します。


 


大滝恭弘先生


 


[略歴]


2002年 医師免許取得、その後11年間、リウマチ専門医として臨床に専念


2009年 医学博士号取得


2012年、都内病院で透析室長として勤務しながら、早稲田大学法科大学院(法学既修者短縮課程)を修了し、同年司法試験に合格


2014年2月から、帝京大学医療共通教育研究センター 准教授(現職)


2018年4月に板橋総合法律事務所(http://itabashi-glo.jp/)を開設、代表弁護士に就任(現職)


 


専門は医療法務


損保ジャパン日本興亜社とクローズドクレーム分析を行い、医療安全への応用を研究中。


詳細は以下のURL(https://researchmap.jp/yo1127/)を参照


 


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