【人気動画】抜髄・Initial treatmentの勘所:木ノ本喜史先生
目次
感染制御と根管貼薬
まず感染制御について、根尖病変の原因が細菌であることを示した有名なKakehashi Sらの論文を引用されました。
古い論文ですが、歯内療法の根本となる考え方を確立した重要な論文ですね。
以前は抜髄後にFCやFG、メトコールなどがよく貼薬されていました。
しかし、根尖病変の原因論が確立してからは、感染度の低い抜髄後にそれほど強い貼薬剤は必要ないとされ、現在は水酸化カルシウムの貼薬が主流になっているとのことでした。
また、感染根管症例においても貼薬剤は水酸化カルシウムが第一選択です。
Bacterial reductionも機械的清掃と化学的洗浄がメインであり、根管貼薬剤の効果に期待する部分は少なくなってきているというのが世界的な潮流とのことでした。
抜髄症例を感染根管にしないために―う蝕除去―
抜髄症例を失敗しないためには、当然のことながらその根管を感染根管にしてしまわないことが最も重要です。
そのためにはう蝕は徹底的に除去する必要があります。
う蝕を取り残してしまう原因として
・ラウンドバーの使用法に起因する問題
・切れない(鈍になった)ラウンドバー・エキスカを使用していること
を挙げられました。
特にエキスカは定期的なシャープニングを行うことが必要で、木ノ本先生のお勧めのインスツルメントの紹介もありました。
また、う蝕は可能であれば露髄前にしっかり除去しておくことも重要とのことでした。
つまり露髄しそうな部分は最後に残しておき、そのまわりからう蝕を除去していくという流れです。
根管治療に入る前にまず、感染源は徹底的に除去しておく必要があるということですね。
抜髄症例を感染根管にしないために―仮封について―
根管治療の仮封で水硬性セメントを用いられている先生も多いのではないでしょうか。
例えばキャビトンが有名ですね。8%程度の硬化膨張があり、そのため封鎖性が良いという特徴があります。
キャビトンには従来からの「キャビトン」と「キャビトンEX」があります。
「キャビトンEX」は従来のものと比べて初期硬化が早く、適度な硬度をキープするという特徴があります。
しかし、「キャビトンEX」でも最終硬化強度に達するまでに3日程度は時間がかかります。
患者さんには、仮封中の食事に対する注意の一言でも伝えておいたほうが良いかもしれませんね。
また、水硬性セメントはユージノールや水酸化カルシウムと接触すると硬化不良を起こすことも頭に入れておく必要があります。
仮封はその厚みも重要です。
Webber RTらによると漏洩防止のためには仮封の厚みが最低3.5mm以上必要です。
この厚みは最も仮封が薄い部分の問題です。歯肉側のマージンでは特に注意が必要ですね。場合によっては隔壁が必要になるかもしれません。
木ノ本先生はどの仮封材を用いるかより、どのような状態で仮封をしているか(厚みは適切か、う蝕は除去されているかなど)が重要であると述べられました。
仮封の際に綿球を留置する先生も多いかと思います。
木ノ本先生は「綿花の繊維が3~5本界面に挟まっただけでも漏洩が起きる」というNewcomb BEらの論文を引用され、綿花の繊維が少し入っただけでも仮封の封鎖性は激減するので注意が必要であると述べられました。
根管探索
拡大視野下における狭窄根管の根管口付近の穿通を行う際に木ノ本先生がお勧めされたのが、リーマーとブローチホルダーを組み合わせた方法です。
15番程度のリーマーを適度な長さで切るなどしてブローチホルダーにセットして用います。
狭窄根管の場合、KファイルやHファイルではすぐにひっかかってしまい進みにくいですが、リーマーでは抵抗が少なく進みやすいとのことでした。
Mouse hole effect
「ある程度治療を進めているのにファイルが根管を捉えにくい」
「ガッタパーチャが根管に入りにくい。髄床底ばかりつっついてしまう」
と感じることはありませんか?
その問題はアクセスキャビティプレパレーションを行う際にMouse hole effectを意識すると解決するかもしれません。
これは根管口を壁際に寄せて形成していくテクニックで、歯内療法分野において世界でもっとも有名なテキストのひとつである「Pathways of the pulp」にも記載されています。
壁際に根管口を寄せていくことで、ファイルやガッタパーチャがスムーズに根管へ入りやすくなります。
作業長の決定
作業長の決定の際に電気的根管長測定器を用いられる先生は多いと思います。
使用にあたり注意しないといけないことは、電気的根管長測定器は根尖の狭窄部の位置を測定できるものではないということです。
電気的根管長測定器では根尖付近における硬組織(歯)と軟組織(歯根膜など)の測定電圧に対するインピーダンス値の違いを見分けようとするものなので、狭窄部を測定するものではないという理解が必要とのことでした。
正確な測定を行うためのポイントとして
・歯髄を概ね除去してから行うこと
・乾燥状態で行わないこと(中を満たす液体は生食、ヒポクロ、浸麻液など何でもよい)
などを挙げられました。
また、上顎洞と近接している根などで歯根膜が薄い場合や歯根嚢胞のある根では反応が不鮮明になりやすいため注意が必要とのことでした。
電気的根管長測定器が最も精度高く検出できるのは解剖学的根尖孔の位置であること示したStoll Rらの論文も引用され、作業長決定では測定器の「APEX」の位置から実測で1mm引くなどの方法を紹介されました。
アピカルストップ
アピカルストップについて、大部分の根管は湾曲しているため従来考えられてきたようなアピカルストップは実際にはレッジであると述べられました。
アピカルストップの是非については諸説ありますが、木ノ本先生は「アピカルシートは形成するものではなく、根管拡大すると形成される形態である」と考えられており、大きなトランスポーテーションとアピカルパーフォレーションを避けることが重要であると述べられました。
おわりに
最後の[Part10]ではテーマの抜髄とは無関係ですが、番外編としてメタルコア、メタルポストの除去方法としてDDT、DVTというテクニックをご紹介していただいています。
本稿では触れていませんが、明日からの臨床にすぐ生かせる内容になっていますので是非ご覧ください。
エンド治療の真髄ということで内容も濃く、見ごたえ聞きごたえのあるご講演でした。
木ノ本先生、本当にありがとうございました。
松浦 徹