ネオスインプラントツアー・イェーテボリ探訪録
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スウェーデン第2の都市イェーテボリ。港町として栄えてきた場所で、北欧の美しい建物が建ち並び、街の中には運河が流れる。都会過ぎず、どちらかというとコンパクトにまとまり、落ち着いた雰囲気を持つ「美しい北欧の中規模都市」といった趣がある。
しかしこの街の歯科の世界での知名度は高い。ペリオ、予防、インプラントの分野で有名なイェーテボリ大学を有し、何と言っても故ブローネマルクが、オッセオインテグレーションを世界で初めて発見し、インプラントに応用した、「オッセオインテグレーションタイプ・インプラントの発祥の地」としてよく知られているのである。
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日本からは北は北海道、南は沖縄、日本全国から11名の歯科医師が参加した。
このグループは松川敏久先生(奈良県開業)と松本和久先生(北海道開業)が中心となり20年以上前より共に海外研修を続けてきたメンバーであり、気心も知れている(筆者は3年前より参加)。
気心が知れすぎ、ハメを外しすぎて数々の伝説を残してきたグループでもあるのだが、先輩方のお叱りを受けそうなのでその話はここでは割愛させていただく…。
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コース内容はネオスインプラント開発者のレクチャー、ネオスインプラント製造工場の見学、ライブサージェリー、補綴ケースの供覧と盛りだくさんであった。
中でも圧巻はネオスインプラント開発者であり、機械工学博士のneoss CTO Frederik Engman氏(フレデリック・エングマン)による「ネオスインプラントのデザインに関する構造的・化学的・生物学的理論」のレクチャーであった。
Engman氏はかつてNobel®社で「ブローネマルク・マークⅣ」の開発に携わっており、この時の経験をもとにさらに理想的なインプラントのデザインを長きにわたって考え続け、ネオスインプラントの開発に至ったという。
ネオスインプラントは強固な初期固定が得られるようにフィクスチャーやドリルプロトコルが設定されており、さらにフィクスチャー強度が非常に高く、破折しにくいデザインとなっている。
なんと300Nもの埋入トルクにも耐えうるとのことであった。(骨は耐えられないと思うが…。)
表面性状も早期にインテグレーションを達成できるよう特殊な処理がされており、なおかつインプラント周囲炎を引き起こしにくいような工夫がなされている。
このようなインプラントの特徴をEngman氏はとても情熱的に語ってくれた。さらに「インプラントを通じて患者の健康に貢献したい」という真摯な思いが言葉の端々から感じられ、心に残った。
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この工場ではネオス社以外のインプラントも多数製造されているそうだが、品質長期保持のため、ガラスのアンプルが用いられているのはネオスインプラントだけだということが印象的であった。
イェーテボリ開業のDr.Lars Sennebyによるライブサージェリーでは、非常に丁寧かつスピーディーなオペがなされ、氏の長年の経験を感じさせた。上顎に3本のインプラントが埋入されたが、そのどれもが80前後という高いISQ値を達成しており、Engman氏の述べていたように、ネオスインプラントでは強固な初期固定が得られることを臨床的に確認することができた。
他にもスコットランド・エディンバラ開業のDr.Perluigi Coliにより、少数歯症例から全顎症例まで様々な症例が提示されたり、ブローネマルククリニックおよびブローネマルク記念館を訪れ、インプラント発祥の歴史に触れたり、と盛りだくさんの研修となった。
ネオスインプラントは2002年(日本では2016年)に製造販売を開始した比較的歴史の浅いインプラントメーカーではあるが近年、ヨーロッパ、アメリカ、日本を含むアジア、オーストラリアなどで急速にシェアを伸ばしている。
そしてその裏には開発者の長年の経験・理論・情熱と「患者に貢献したい」という真伨な思いがあることを今回のコースを通して知り、この急速なシェア拡大もむべなるかな、と合点がいった。
筆者はすでにネオスインプラントを臨床導入しており非常にシンプルで使い易いシステムだと感じている。今回の研修を通して、このインプラントを使用することによる優位性をより深く学ぶことができ、非常に有意義なツアーとなった。(幸か不幸か今回はハメを外しすぎる人はいませんでした…。)
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井上謙 先生
略歴
2004年徳島大学卒
2004年一般開業医勤務
2009年 I DENTAL CLINIC 開院
日本臨床歯科学会(SJCD)会員
日本臨床歯周病学会会員
日本口腔インプラント学会会員
著作 根面被覆術をオプションに加えよう(共著)ヒョーロン